ドイツから欧州に展開している「ホワイトレーベル書店エコシステム」Tolinoは4月28日、新たに自主出版支援ポータルTolino Mediaを立ち上げた。著者支援プラットフォームのNeobooksを運営するDroemer Knaur (DK)との共同開発によるもので、書店連合を背景としてシェアを確保しつつあるTolinoは、このサービスでアマゾンKDPに対抗しようとしている。
著者・書店・読者で完結するコミュニティ
Tolino Mediaは、自主出版を支援するサービス・プラットフォームで、EPUBのアップロードおよびフォーマット変換、販売価格の70%の版権料(アマゾンを使うときは30%)などの条件でサービスが提供される。Neobooksが開発したものがベースとなるが、今後もサービスの高度化で協力していくという。販売はTolinoに加盟する1,000以上の書店を通じて行われる。すでに自主出版で成功したドイツ人作家(Elke Bergsma, Nika Lubitsch and Alfred Bekker)がTolinoを利用する意向を表明している。
Tolino Media担当ディレクターのトーマス・フォルストポイントナー氏は「Tolinoエコシステムの広汎なネットワークと著者が70%を受け取るという魅力的な条件により、私たちがE-Bookを自主出版することを望む人すべてにとって重要なパートナーとなることに完全な自信を持っています。私たちは成功した著者が街の書店で印刷本を販売する機会も提供します。」と述べた。
これまでの自主出版は<著者+オンラインストア>というモデルで発展してきた。出版社と書店との関係は強く、本とは出版社が出版したものであることは自明と考えられていた。書店にとっても出版社を不要とするインディーズ本を扱うことは考えられなかったろう。アマゾンはこの常識を破壊し、KDPの成功によって「読者が認めるものが本である」という原理を確立した。NookとKoboはこれに追随したがオンラインだけの話だ。Tolino Mediaは「誰でもインディーズ本を販売できる」ようにしたことが画期的だ。著者は懇意にしている書店から購入を進めることが出来る。著者だけでなく書店もインディーズとしてデジタル出版ビジネスに参加する時代となったのである。
著者には書店を大事にしている人が多いので、これは成功する可能性が高い。日本でも、江戸時代の本屋は「出版・販売・古書売買」を兼ねていた。それが意味を持ったのは、著者と読者、売り手と買い手という(顔の見える)同じコミュニティを相手にしていたからだ。デジタルによって、そうした「顔の見えるコミュニティ」は復活するだろう。Tolino Mediaはソーシャルな性格を強めることでビジネスモデルとして成立する可能性がある。アマゾンの弱点はそのくらいしかない。◆ (鎌田、04/30/2015)