米国ボストンのグローバルE-Book配給会社Trajectoryは中国のシャオミ(小米)との間で、マクミラン、MIT Press、Gardners Books (英)の英語タイトルを後者のeBookstoreに提供することで合意に達した。Tencentに続いての契約で、中国市場を身近なものとしつつある。他方で蜃気楼のようにスマートフォン市場に登場したシャオミだが、コンテンツではどうだろうか。
数十万点の英文E-Bookが中国市場へ
ガードナーズ社は、英国最大の取次企業で欧州全域の英語書籍流通を扱っている。4,000あまりの出版社の書籍、E-Bookも85万点を扱うとされているので、計算上はこれだけの英文書籍が中国市場への足掛かりを得たことになる。一夜にして市場へのアクセスが開けるのだから、デジタルの世界はダイナミックだ。Trajectoryは、英国系と米国系を合わせて中国市場の足場を構築したことになる。
TrajectoryはTencentの場合と同様、独自の自然言語処理(NLP)エンジンを使った中国読者向けメタデータ生成機能により、英文カタログから最適なタイトルの発見を支援する。これは中国語ほか数ヵ国語で使用可能という。外国語書籍を販売する場合、メタデータのローカライズは重要な意味を持つ。そのタイトルが外国語を読む不自由を差し引いても「読むべき本」であるかどうかを知る手掛かりとなるからだ。カテゴリは万能ではない。キーワードなどの生きたメタデータがコンテクストを示し、レビューが後押しとなるだろう。NLPがここでどの程度のパフォーマンスを発揮するかが注目される。
シャオミはスマートフォンとタブレットを中心としたデバイス事業で、すでに世界のトップレベルに立った。しかし、デバイスで争うつもりはないとして、最初からアマゾンと同じビジネスモデル(デバイスではなくコマース)を描き、ソーシャルなマーケティングを駆使することで独自性を磨いている。もともとメディア性を持っているということで、コンテンツ・ビジネスへの進出も予定通りだった(2013年末)。
eBookstoreはAndroid OSのカスタマイズUIであるMIUI用のプラットフォーム。MIUIは他のAndroid上でも利用可能で、Next 7用の実装もある。もともとは買収したスタートアップのDuokan(Kindle用ファームウェアでも知られる)が開発したもの。料金は1,000文字を読むごとに0.03元(約0.6円弱)で、売上はコンテンツ提供者と折半する。通常のE-BookストアよりはSpotify(スウェーデンに本社を置く音楽ストリーミング・サービス)に近いと言われる所以だ。軽く、短いものを数多く読むためのもののように思われる。仮に1ページが1,000字とすると100ページで60円。しかし、同じスキームが外国語書籍にも適用されることはあり得ないだろう。
高速で成長を続けてきたシャオミだが、中国市場への依存度が高く、その市場も飽和点に近づいていると言われている。低価格・高性能路線も息切れが見え始めた。最近の製品は必ずしも低価格ではない。そこでインドなどの途上国市場や欧州などの開拓とともに、中国でのコンテンツ事業の拡大を目ざしていると思われる。しかし、読書端末としては圧倒的にスマートフォンが多い市場とはいえ、タブレット市場では影が薄いのも問題だ。MITプレスの本をスマートフォンで読むことは出来ない。◆ (鎌田、04/16/2015)
- Trajectory adds new deals to China partnerships, By Porter Anderson, The Bookseller, 04/13/2015
- Trajectory Signs Deal to Bring US, UK eBooks to Xiaomi Smartphones, By Nate Hoffelder, Ink, Bits & Pixels, 13/04/2015
- Xiaomi gets literate, launches e-reader app and e-book store, Tech in Asia, 11/01/2013
- Xiaomi Launches eBookstore in China – Will Soon Prove Serious Threat to Amazon, By Nate Hoffelder, Ink, Bits & Pixels, 11/01/2013