ドイツで生まれ欧州全体にビジネスを拡大しているTolinoのレンクル氏が、フランクフルト・ブックフェアのボース総裁とともに来日し、その成功の秘密の一端を知ることが出来た。それはデバイスやクラウド・サービスではなく、伝統的な書店の持つ「非価格競争力」である。それは何か。どうやって引き出すことが出来たのか。
「お得意様」が書店を救う
Tolinoは短期間に目ざましい成果を収め、国際的調査会社のGfkによってアマゾンと匹敵するシェアを確保したとされる。E-Book購入者を対象としたサンプル・サーベイによるもので、金額でのシェアなので、比較的実態を表しているものと思われる。レンクル氏によると、ユーザーの属性は「アマゾン派」と「Tolino派」に2分されるという。前者は比較的若い層で、インターネットやガジェットを使いこなしており、アマゾンに抵抗感を持たない。後者はその逆だが、紙の本をよく読む地元書店のお得意である。蛇足ながら、ドイツでは基本的に固定価格となっており、小売価格の差はない。
ユーザーのプロファイルがTolinoの成功の要因を語っている。紙の本はよく読むが、デジタルが嫌いというわけではない読書家層は、書店が売るデバイスとE-Bookを待望していたということだ。重要なことは彼らが贔屓にしているのは特定の書店あって、どこでもよいわけではなかったということだ。Tolinoに参加している大型チェーン店であるターリア、ヴェルトビルト、ヒューゲンドゥーベルなどは、消費者との結びつきが強いわけではなく、自動的にアンチ・アマゾンの支持を集められるわけではない。筆者はTolinoを「大手書店連合」として理解していたが、むしろ独立系書店に開放したことが成功につながっていたことになる。
アマゾンと拮抗した「ホワイトレーベル・エコシステム」
Tolinoのビジネスモデルはユニークだ。それはTolinoの性格に由来する、つまりふつうの営利企業ではなく、書店連合とドイツテレコム(DT)による共同プロジェクトで、KindleやKoboと比較すべきものではない。DTが提供するTolinoのテクノロジー・プラットフォームと読書環境は、書店と消費者をつなぐ役割を負う。本を売る(消費者が購入する)のはTolinoではなく、実在する書店である。つまりTolinoはオンライン・ストアフロントで、機能としてはPOSレジのようなものと言って差し支えない。
Tolinoでは書店のためのこのビジネスモデルを「ホワイトレーベル・エコシステム」と称している。これはオンライン取引・決済プラットフォームでは珍しいものではないし、E-Bookでも構想されたことはあるが、実現したのはTolinoが最初だと思う。理由ははっきりしている。これは小売店舗と消費者との結びつき(信頼感と愛着)が強く、プラットフォーム側の公共的性格が強いことが基本的な条件になるが、米国ではそうした環境はない。つまり、Tolinoの成功は、米国モデルではない欧州モデルにしたことにあるということだ。◆ (鎌田、04/14/2015)