スタート以来、米国E-Book市場を著者の立場から見た貴重なデータを提供し続けるAuthor Earnings (EA)の四半期レポートが1年半を経た6回目で、またまた衝撃的な内容を伝えた。大手5社の新しい価格政策の影響を評価できる最初の機会となったが、レポートは、高価格化が市場に深刻な影響を与えたと指摘している。打撃を受けたのは何よりも自分自身!?
米国E-Book市場で何が起きているか
前回、非ISBN出版の規模について伝え、業界標準となっている統計システムの問題を顕在化させたAER(以下AERn6)の最新レポートは、大手出版社5社による価格体系変更(エージェンシー価格制への回帰)の影響について、これが売上を大きく減少させたと断定している。AAPによって5社を含む在来出版社1,200社の2014年のデータがE-Bookの減少を伝えていたことも、そのことを裏付けるものとされている。
調査方法を確認しておくが、AEではアマゾン(参考としてNook)の四半期毎の月初の1日のランキング・データを使い、売上げ上位20万点(アマゾンのE-Book売上の55%以下)について、出版主体の5分類別に、(1)発行点数、(2推定販売点数、(3)推定売上額、(4)著者の実収におけるシェアを導いている。つまり、アマゾンのE-Book販売を対象としたサンプルサーベイであり、金額はアマゾン・ランキングと著者実売数の関連から推定されたものだ。データ・インテリジェンスを有するボランティアの作家の協力によって集計、計算されたもので、これがどの程度実態を近似しているかは定かではないが、出版社の出版社のための統計という性格が強かった伝統的な統計の死角になっている部分を照射しているという点では貴重なデータといえる。つまり、考えて使うべきもの、考える価値があるものだ。
ここでは要約を先に行い、検討は別稿に回す。
今回のレポートは、まず価格動向から入る。アマゾンの上位5万点について、出版タイプ別に1年半の定点観測の結果をグラフ化している。インディーズ刊行物の価格が4ドル前後でアマゾン出版の刊行本とほぼ一致しているのに対して、商業出版社は2倍強の8~11ドルのレンジなのだが、大手5社の価格は一貫して上昇を続け、期間内で17%上昇した($8.39→9.83)。この一貫した上昇は、昨年末のエージェンシー価格制への復帰以前から、出版社の手で値上げを進めていたことを示している。
インディーズが躍進、大出版社化したアマゾン
(1)発行点数でのシェア
今年1月の数字と比較しているが、商業出版系が73%→62%に減少し、インディーズ系が26%→37%と増加、アマゾン出版は1%と変わっていない。商業出版系が3分の2を割り、インディーズが4分の1から3分の1になっている。とくに5社のシェアが19%→14%と6ポイントも落としている。中小も6ポイント落として5割を割った。
(2推定販売点数でのシェア
発行点数でのシェアは、販売点数にも反映されている。アマゾンを除く商業系が52%→46%に対して、独立系が38%。そしてここでアマゾンが二桁のシェアで顔を出す。1月との比較では1ポイントのプラスだが、確実にシェアを稼いでいる。つまり、商業出版系と独立+流通系で比較するなら、後者が54%となり、在来出版との力関係が、少なくともKindleのエコシステムにおいては逆転したことになる。
(3)推定売上額におけるシェア
これはKindleにおいて消費者がいくら使い、そのシェアが発行主体別にどうだったかを示すものだ。上記と同様に、商業出版系と独立+流通系を比較してみると、前者が71%→66%と5ポイント低下し、後者は29%→34%と同じ分だけ上げた。とくに大手5社が5割を割り込んだことが特筆される。そしてアマゾンがここで10%を占めている。つまりアマゾンは(もちろんKindleに限っての話だが)ビッグファイブに並ぶ存在となったのである
(4)著者の実収におけるシェア
毎度述べているように、この数字こそAERのハイライトで、著者から見たビジネスモデル(チャネル戦略)の優劣を示す。そしてインディーズは初めて40%(著者出版の3%を合わせると43%)を占め、5社(31%)を抜き去り、中小出版社(16%)と合計した商業出版系(47%)に肉薄する勢いだ。アマゾンが10%を占めたので、独立+流通系として括れば商業出版系を凌ぎ、史上初めて、著者の最も重要な収入源が出版社ではなくなったのである。
そして商業出版社は最大の発行主体でもなくなった
(3)の数字では商業出版はなお3分の2を占めている。しかし、著者を主体として考えた時(4)にはその重みは半分を切る。それは商業出版モデルにおける著者の版権料率が低いためだ。自主出版では売上の70%あまりを著者が手にするのに対し、商業出版で著者に与えられるのは、70%に対する20%(14%)といった数字となるからだ。商業出版の場合には、印刷本の版権料の問題があるので、単純に言えるものではないが、著者にとっての出版社の意味は、たとえばE-Book向きのフィクション作家の場合には微妙なものだろう。
出版社にとって、これは戦慄すべき数字と言えるのではないだろうか。Kindleは米国でE-Bookのシェア7割に迫るメガストアであり、市場全体の傾向を代表させても問題ないほどだ。少なくとも、出版社団体AAPの数字(1,200社分)市場の全体を反映している。全体として見た著者の主要な収入源が自主出版となり、それが継続するとすれば、著者と出版社の関係に変化がないとは考えにくい。
伝統的に出版社は書籍のほぼ唯一の発行主体であり、著者は出版社に選ばれる存在だった。それぞれにランキングとクラスがあり、有名著者は高額な前渡金を要求でき、大出版社は書店の店頭でもメディアの書評でも有利なスペースを確保した。そして消費者/読者は、出版社が素材をスクリーニングして出版し、書店に並んだ商品から選ぶ。これが伝統的な秩序であり、米国では大出版社に対抗した大手流通の力が強く、日本では東日販の株主である大出版社の支配力が強い、という差はあったが、著者と消費者が「業界」の外にいたことは同じだ。この秩序が、根底から覆されようとしている。◆ (鎌田、05/11/2015)