英国ペンギンランダムハウス (PRH UK)とアマゾンとの包括的契約交渉が難航し、今月末の期限切れ・販売停止の可能性を示唆する記事が見え始めた。当事者はそれぞれ意欲的に交渉を進めていると述べており、そうした「破局」報道はナンセンスというしかないが、出版関係者はやはりすんなりいっては面白くないのだろう。
毎度おなじみ「一瞬の緊張」
アマゾンとビッグファイブとの契約更改をめぐる交渉は、残すところ世界最大手のペンギンランダムハウス(PRH)だけになった。英国が5月、米国は年末に現行契約が終了するが、旧ペンギン社を継承するPRH UKとの交渉が完了していないことが明らかになったわけである。Re/code (05/22)は「最悪のシナリオ」として、契約期限満了とともにPRH UKのタイトルがアマゾンから消えるとまで書いている。現実的にそれはあり得ないし、昨年のアシェット(HBG)との紛争のさ中でさえ、アマゾンが販売を停止することはなかった。世界最大の出版社の書籍が世界最大の書店から消えるかも、というシナリオは、まともではない。
アマゾンは「他の4社と同じ条件であれば問題なく受け容れる用意がある」と表明しており、PRHがこの「修正エージェンシー・モデル」をも拒否することがあるはずはない。そもそも、泥沼の事態に至ったHBGの場合、昨年3月から11月までは「無契約状態」となったが、実際のアマゾンの対応は、印刷本の在庫量を減らし、プロモーションや値引販売を停止し、予約ボタンを撤去しただけだ。つまりユーザーの注文には応じるが、HBGのための売り込みは行わないという「消極的」なものだった。しかし、アシェットへの影響は小さくなかった。好調が続いてきた同社の決算は昨年大幅な減益を計上している。
2014年のケースは、アマゾンが特定出版社のタイトルのプロモーションを停止した場合の影響を検証する材料とすべきものだ。昨年のアシェットは強力な新刊タイトルを擁しながら、十分なパフォーマンスを発揮できず、とくに著者の期待を裏切った。マクミラン、S&S、HCが紛争化を避けて契約締結を選択したのは、アマゾンの影響力を評価したためだ。ビッグファイブはアマゾンへの依存度を減らすためにあらゆる努力を続けるだろうが、そのために販売機会を犠牲にするなどは論外で、地道なマーケティングに取組んでいる。◆ (鎌田、05/26/2015)