E-Bookにオーディオ(サウンドトラック)機能をもたせるユニークなプラットフォームを提供する米国のBooktrackが4月29日、新しいサービス・プログラムを発表した。本の世界に没入できるオーディオで拡張することで新しい読書体験を提供し、E-Bookの新市場を創造することを目ざしている。
E-Bookにサウンドを埋め込む
昨年4月に300万ドルの追加資金調達を行ったBooktrack(サンフランシスコ)は、まず積極的な(engaged)ユーザー・コミュニティの拡大に着手し、同社によれば200万人に達した。今回の発表はこのスタートアップ企業が収益化 (monetization)の段階に入ったことを告げるものだ。サントラ付E-Bookのタイトルの総数は12,000点で、30の言語に及んでいるとリリースで述べている。
Booktrackのサウンドトラック生成ツールは無償で提供されており、数千のタイトルを無料で試すことが出来るが、新たにBooktrackとしてタイトルの販売を開始した。現在150本あまりが販売されている。著者/出版社は完全な価格決定権を持っているが、ほぼ在来のE-Book版から2-3ドル増しで値付けされているようだ。ポール・キャメロンCEO(写真=下)によれば、「E-Bookの市場価格+30%のサウンドトラック収入」を標準的なものとして提示している。Booktrackはそのほか、ユーザーがサントラ付E-BookをWebページに埋め込む機能を提供する。ショーケース機能を自社サイトの外(例えば著者のWebページ)に拡張して即売もできる。
サウンドトラックは映画の同期再生用音源から派生して、挿入音楽あるいは「映像とシンクロする音全般」を意味するものに広がっているが、Booktrackは文字主体の本と同期するサウンド・シーケンスを付加価値としてするものだ。E-Bookのコンテンツにはまったく手をつけないので、制作はサウンド・プロデューサーや音響効果の仕事となる。しかし、読書の感興を損なわないサウンドは簡単ではない。うまくいけばよりイマーシヴになり、下手をすれば読書を妨げる恐れもある。邪魔だと思えば音を消せばよいが、そうなると追加分のコストが無駄になる。結局、地道に成功例を積み上げていくことが重要だ。主として年齢的に若い層への訴求を重視している。
ローエンドからの拡張E-Bookのアプローチ
拡張E-Bookには様々なタイプがある。動的コンテンツの中でもサントラは最もシンプルなもので、映像、アニメ、データからインテリジェンスを組込んだ対話機能まで、開発費用も実現環境も異なる。これまで大手出版社が手を出しては事業的に失敗したのはアプリとなったほうだ。開発費用は3年前と比べて一桁は下がったはずで、実現環境(モバイル・プラットフォーム)も性能向上と普及が著しいが、その割にはチャレンジが少ないのは、本という完成されたコンテンツの「拡張」がそう単純でないからだ。iOSをフルに使った教育系の拡張E-Bookを目ざしたデジタル出版が「PDF+アルファ」のレベルにまで退行したのも、ユーザーに受け容れられるE-BookのUI/UXを固めるのが容易でないことを知ったためだ。
Booktrackのアプローチは、オーディオブックの商業的成功に触発されたものと思われる。E-Book+アルファは、成功した場合にアマゾンなどのE-Bookプラットフォームに吸収される可能性が大きいが、それは計算済みだろう。◆ (鎌田、05/07/2015)