サイモン&シュスター社(S&S)は、コンテンツ配信サービスのFoliと提携して、5月15日から全米の空港、博物館、ホテル(計50ヵ所)を通じて同社発行のE-Bookタイトルの試読サービスを開始する(→リリース)。Foliのサービスは以前から提供されていたが、大手出版社が提供するのは初めてらしい。「場所」というコンテクストはマーケティングの基本だが、どんな効果が期待できるか。
S&Sのジオマーケティング
Foli は地域限定の無線配信技術を使ったサービスを提供する企業。具体的には、公衆Wi-Fiネットワークのためのランディング・ページの構築と管理を請負う。ホテルや空港の施設ガイドをローカルな天気予報、観光・買物ガイドなどとともに提供しているが、そうしたメニューの中に仮想ブックシェルフを設置して特別なコンテンツを提供するというもの。書籍や雑誌を含む各種コンテンツを特定の場所(地域・施設)に限定提供するところがユニークなのだ。シティガイドやプレイガイドはおなじみのものだが、S&SはFoliのサービスをマーケティングのチャネルとして利用する。
最初のプログラムとして、ワシントンのスミソニアン航空宇宙博物館で提供されるタイトルには、ノン・フィクション作家で歴史家のデイビッド・マカロー(David McCullough) が書いた『ライト兄弟』が含まれる。ユーザーはFoliのアプリをデバイスにダウンロードすることで無償試読ができる。3日間の期間限定だが、全部が読みたい場合は割引で購入できる。S&Sが空港で提供を予定しているのは本書を含む18点。
提供タイトルは、スティーブン・キングの 'Revival'、アンナ・トッドの 'After'、ウォルター・アイザックソンの 'The Innovators'など。ホテルにはニューヨークのアルゴンクィン、フォー・シーズンズ、サンフランシスコのスタンフォードコートなどの高級ホテルがリストされている。しかし、高級ホテルに限られるならばインパクトはほとんどないだろう。
地理情報を利用したマーケティングをジオマーケティングと呼ぶ。GPSがらみの高度なものが連想されるが、必ずしもそうしたものである必要はない。公衆無線LANでも十分に色々なことが出来る。米国ではジャンル・フィクションやコミック関係のファン・イベントが活発で、会場と周辺のホテルで参加者に開放することで、膨大な数のSMSメッセージが飛び交うことになる。<場所×イベント×コンテンツ>というコンテクストの相乗効果が大きいことは想像に難くない。とはいえ、コンテクストの使い方は注意が必要だ。成功に至るまで何度もクラッシュを体験したライト兄弟の伝記を機内で読みたい人はいるだろうか、とIBPのネイト・ホフェルダー氏は疑問を呈ししている。◆ (鎌田、05/19/2015)