アマゾンは7月14日、傘下のAudibleを通じ、日本でオーディオブックの月額1,500円の定額制サービスを開始した。Android、iOS (今夏)アプリでの配信を行うもので、当初は2、3千本程度のタイトルだが、今秋には小説やビジネス書、朗読劇を含め、1万本を目途に拡大するとしている。潜在的には大きいこの市場がようやく起動しそうだ。
オトバンクがコンテンツ提供
当初のタイトルには、オトバンクがFeBeで提供している13,000点中の約2.000点が含まれている。残りについても権利調整の上で順次提供されるという。アマゾンの発表は定額制サービスだけで、1万5,000点のカタログを含むAudible.comの通常サービスは含まれていない。つまり、日本の(Audible.co.jp)アカウントは、当面は会員サービス専用のものでA-Bookを購入することができない。同社は各国で同様のアプローチをしており、A-Bookについては、タイトルからビジネスモデルまで異なったものとするほうがよいと考えているようだ。
米国や欧州の一部では書籍市場全体の10%にも達する。日本では50億円以下ということなので、ほぼゼロからのスタートとなるだろう。「カセットブック」から30年。CD、MP3を経て、クラウド・プラットフォーム(A-Book)の時代で世界市場と同期することになる。今回はスマートフォンという最も普及した形態デバイスがターゲットなので、日本では、むしろE-Bookよりも普及は早いかもしれない。根拠は多い。
- 広汎に普及したスマートフォンを中心に利用が容易
- 文芸から実用書、教科書、教材まで分野・用途は多彩
- 書店の商品とまったく競合しない(独自な価格設定が可能)
- 活字本と別個に制作体制を組め、コストは安くなる(インディーズ向
- 初期には定額制モデルが市場拡大を助ける
- オーディオ+活字+グラフィックなど多様な組合せのE-Bookのベースになる
インディーズ出版で可能性は広がる
オーディオブックは隣接著作物で、紙ともE-Bookとも別の商品だ。かつて制作にはスタジオ設備を必要としたが、画像・映像と同じく、デジタルによる制作環境の変化は著しく、この10年の録音・編集機材、ソフトウェアの進化は目を見張るものがある。その気になればコストはいくらでも安くなる。リスクが小さいので、ビジネスモデルも組みやすい。したがって自主出版に向いている。米国ではA-Bookの自主出版がブームとなろうとしている。
筆者がとくに期待しているのは、教育系のA-BookおよびA+E-Bookのコンテンツ(アプリ)の増加だ。オーディオとインフォグラフィックス(あるいはスライド)は教育効果が高く、教師・教職経験者はもちろん、カルチャースクール講師、ITインストラクターなどが自作教材を制作・販売するようになれば、出版コミュニケーションの環境も変化することが期待される。
日本語は、内容を理解しないものには正しく読めない、という意味で相対的に読解が難しい言語である。漢字、カナ、ローマ字等の混在に始まり、読み方の不統一、統一的表記法の不在など、苦労して(専門別の)読書力を修得した一部の「「活字人間」のほかにはアクセスが難しいことが多いのだ。マンガの発達という副産物はあるが、活字コミュニケーション能力の減退は危機的なレベルにあると思われる。A-Bookは眼で読むことに親しめない日本人の多数の読解力を支援することが期待できる。◆ (鎌田、07/28/2015)