the Hustleというオンライン・ジャーナルが掲載した記事が米国で話題を呼んでいる。成功者による「Kindleで安直に儲ける秘訣」といった内容だが、それが具体的・実践的であることだけでなく、E-Bookあるいは出版の本質について考えさせられるものであるためだ。少なくともKindleをゲームとして観察する視点は大いに参考になると思う。
2週間で1冊。年間15万ドルのビジネス
「Kindle Gold Rushers (金鉱掘り)たちの秘密の世界」と題するthe Hustleのルポルタージュ記事は、「低級Kindle本」を量産して月1万ドル以上を稼いでいる出版者たちを取上げている。なかなか刺激的な記事で、話題になるのも頷ける。「E-Book自主出版なんて売れっこない」という声がある一方で、月間6,000冊をコンスタントに売り、年間15万ドルを稼ぐプロがいるのもこの世界ということだ。出版社の企画担当者にも参考になることが多いだろう。
Hustleのルポでは、金鉱掘りたちの中でも稼ぎ頭と目される26歳の匿名のノン・フィクション・ライター兼出版者を取上げている。彼はアマゾンで販売し、いくつかの部門の上位を占めている。最初は自主出版者として方法論を確立したが、最近は自分で書かず、外注するスタイル。しかも、ライターは非英語ネイティブのフィリピン人で、会ったこともない。
24歳までは企業で週70時間、専門職のサラリーマンとして働く生活だったが、Kindle著者についてのある記事がきっかけで、Kindleで「出版者」としての挑戦することを思い立つ。書いたことも、出版したこともなかったが、Kindleストアの自己啓発本のページを読んだだけで、敷居が低いことを実感した。これを選んだのは、自分がよく知ることで、引用や事実確認などのチェックが不要なためという。最初の本は、18,000語(40ページ)の「説得力を持つには」といったハウツー本。まず自分で数冊の本の目次をもとに3ページほどの構成をつくり、2週間で原稿を書た。これを自分で編集し、フィリピンのグラフィック・デザイナーが5ドルで作った表紙を付けて、Kindleストアに出した。最初の月は11部、翌月は30部。実収は1部35セント。成功にはほど遠かったが、著者・出版者となったことに満足して、次の本を手がけることにした。
彼は2、3ヵ月の間に、同じテーマで8冊の本を書いて出したが、うち2点は月1,000ドル以上を売り、アマゾンからの実収は月4,000ドル以上になった。いちおう生活できるレベル。キャンペーンのようなものは何もしなかった。Kindle本は表紙と解説が問題なので、コピーライティングを勉強したが、それは非常に役立った。コンテンツも(それなりに)重要だ、と彼は付け足している。仕事の進捗は目を見張るほどで、彼も多忙を極めた。1冊の本に2週間というペースは、相当な集中力を要する。彼のライター、編集者としての才能は疑うべくもない。
アウトソーシングは、原稿150ドル+表紙デザイン5ドル
彼は出版をスケールアップすべく、少なからぬ有名著者がしているようにゴーストライターを雇うことにした。ライターはインターネット・マーケッターのためのメッセージボードWarrior Forumで見つけた。eLance や Craigslistのような求人サイトも試したが、これが一番だった。売上が月4,000ドルなので、1冊1,000ドルはする上級のライターは使えなかった。それに一般的に、読者はあまりライティングの品質は気にしていないというのが彼の判断だ。8人のライターをオーディションし、本の企画に対して2,000語のエッセイを書いてもらって選抜した。彼が選んだライターはフィリピン在住。わずか150ドルで2万語の見事な英文を書いてくれた。
ゴーストライターの採用によって、テーマ/ジャンルが拡大し、DIY市場の穴を見つけることで園芸のような分野にまで手を広げることが可能になった。40ページの園芸本はとてもよく売れている。自分は何も知らないのだが、専門家のように振る舞うことで稼いでいる。「罪」の意識はもちろんない。ジェームズ・パターソンのような大御所でさえゴーストライターを使っているのだ、と彼は言う。実際、彼の仕事はほとんどの出版社の企画担当者がすることと変わらない。テーマを見つけ、売れている本の目次を詳細にチェックし、それらをアレンジした企画構成案を書いて人に原稿を書かせるのだ。→つづく ◆ (鎌田、07/23/2015)