インプレス総合研究所は6月29日、『電子書籍ビジネス調査報告書2015』を発表し、この中で2014年度の電子書籍市場が前年度比330億円(35.3%)増の1,266億円になったと推定した。今年の主役もマンガの「単行本まとめ買い」であり、部分的な電子化はやがて飽和点に達するだろう。一方、電子雑誌は88.3%増の145億円となり、一気に100億円を超えた。
「5年間で700億円」は大きくない
昨年とは発表スタイルが変わり、ケータイとPCの「旧プラットフォーム向け」という区分がリリースからは消えた。2013年度で140億円まで落ちていたケータイ向けが無視できるものとなったと思われる。2009年に「新プラットフォーム」が登場してから、3年で新旧が逆転し、5年で「旧」がほぼ絶滅したことになる。2010年を基準にすれば、旧プラからの移行分を除いた市場の成長分は700億円になった(2013年は364億円)。たしかに成長は加速しているように見えるが、ケータイからの移行を除いて、5年間で700億円というのはそう評価できるものではない。グローバルなプラットフォームであるスマートフォンの爆発的普及を考えれば、むしろ対応は遅れたと言える。
インプレスの今年以降の予想は、2015年(26.4%)、2016年(23.8%)、2017年(17.2%)、2018年(13.8%)と減衰していき、2019年で2,890億円となっている。外挿法による予測は「何も起きなければ」この程度の数字となるというものだ。構造的な変化は予測していない。出版社はマンガ以外の電子化を渋り、価格は紙にリンクして高止まり、意欲的なE-Bookの企画はなく、自主出版も…といった具合。ちなみに、2014年の印刷書籍売上の推定8,089億円が、年4%のペースで減少を続けるならば、2019年に6,500億円程度に萎んでしまうだろう。電書と合わせても9,400億円あまりで、デジタル比率は30%となるが、独立した産業として、メディアとしてのエコシステムを再生産できるレベルではない。20%前後の成長は、一見すると悪くないかも知れないが、出版ビジネスがデジタル主体への転換期にあることを考えれば、なんとも生ぬるく感じられる。
<書・雑・漫>のビジネスモデルの再構築が急務
同じことは、雑誌についても同じだ。100億円を超えたことは慶賀すべきことで、初めて2倍近い拡大を示したことは評価すべきだが、インプレスも2016年以降は継続するとは見ておらず、2019年で510億円あまり。2014年で8,802億円と下落幅を大きくしている紙の雑誌が5%を超える下落を続ければ、2019年で6,800億円あまりとなる(2,000億円の減少)。書店の減少を考えれば、減少は年5%ではきかずに拡大していくはずだ。500億円はとても雑誌を救うほどのものではない。しかし、雑誌には広告販売という別のビジネスモデルがあるので、状況は一変する。結局、雑誌がこれまでのようなビジネスモデルで存在するのは無理ということなのだ。
日本の出版ビジネスの特徴は、書籍と雑誌の混合、マンガの重要性ということだった。それは21世紀のメディア環境ではポジティブな要因だと筆者は考えている。デジタルによる連携がしやすくなるからだが、それには書・雑・漫の境界を超えたビジネスモデルの再構築を不可欠とする。現状では、デジタルが緩い前進を続けている間に、出版業界じたいが力尽きてしまうことになる。◆ (鎌田、07/01/2015)