世界的な出版社団体である国際出版社協会(IPA)は7月20日、79ヵ国を対象とした紙とデジタル書籍への課税の比較調査の結果を発表し、E-Bookへの平均税率が印刷本の2倍にも達することを明らかにした。消費税制というものは市場をある方向に誘導する働きがあるが、多くの国の行政・立法府は明らかに紙を「支持」しているといえよう。
欧州諸国で顕著な「紙の優遇」
調査は、IPAと欧州出版社連盟(FEP)が行った。国によって付加価値税(VAT)、商品サービス税(GST)に分けられるが、本調査ではVAT/GSTと一括している。対象は欧州36、アジア13ヵ国、中南米9ヵ国とカナダ、オーストラリア、ニュージーランド。州ごとに分かれる米国は含まれていない。設問は、(1)標準税率、(2)書籍への別枠の有無、(3)E-Bookへの別枠の有無。とくにデジタルへの課税の相対レベルに注目している。
その結果だが、とくに欧州諸国では「紙の優遇」が顕著で、5.75%に対して12.25%。スウェーデン、アイルランド、ハンガリーでは印刷本への税率はごく僅かであるか免税されるのに対して、E-Bookは20%以上と、ほとんど“罰金”に近い。その他の主要な事実は以下。
- 調査対象国のうち、標準税率を印刷本に適用している国は22%。E-Bookに適用しているのは69%(一般商品扱い)。
- 印刷本とE-Bookの税率が同じなのは37ヵ国。37ヵ国では印刷本を優遇。
- 35ヵ国ではE-Bookに高率の課税。
- E-Bookに軽減税率を適用する国はフランス、イタリア、トルコの3ヵ国。
- 印刷本に適用される平均税率は5.75%、E-Bookは12.25%。
- チリを例外として、中南米諸国では印刷本は免税。
- イスラエルを例外として中東諸国は印刷本に標準税率を適用しない。
- アジアの標準税率(8.6%)は欧州(21%)よりかなり低い。
- アフリカ諸国(対象は13ヵ国中8ヵ国)では印刷本が免税。
- デンマークの印刷本への税率は対象国中最高の25%。
- ハンガリーはE-Bookへの税率が同じく最高の27%。
無税化を促進しないとコンテンツビジネスは衰退する
IPAの立場は、レポートで述べられているが、
- 本は特別な商品であり、軽減税率(理想的にはゼロ)が適用されるべきである。
- E-Bookは印刷本と同じく読書に使われるもので、同等に扱われるべきである。
というもので、多くの人が賛同するものと思われる。しかし、現実はそうなっておらず、日本がそうであるように、書籍への軽減税率も常識というほどではない。さらに、E-Bookへの“懲罰的”課税は、このフォーマットがアマゾンを通じて広がったことへの反撥も映しているが、逆に国内のE-Bookサービスデジタル出版の成長を困難にしている。欧州では消費国課税(VATMOSS)によって、問題はさらに複雑になった。
コンテンツ/サービスへの課税は市場と技術革新を歪んだものにする。印刷本とE-Bookは無税化すべきだ。さもなければコンテンツはWeb上の無償のものが発展するが、それはコンテンツの市場化より広告的コンテクストのアンバランスな市場化(サービスへの従属)を促進することになるからだ。長期的にはIPAの提唱する方向に進むと思われるが、時間がかかるほど米国型のビジネスモデルが優位となるほかはない。◆ (鎌田、08/06/2015)