アマゾンは9月9日、昨年10月に立ち上げたクラウドソース出版プログラム Kindle Scout (KS)を、日本を含む世界規模に拡大すると発表した。これはビジネスのコンセプトが米国での実験の後、実際に機能したことも意味する。当面は英語だが、対象は日本、欧州をはじめ、カナダ、オーストラリア、南アフリカ、ブラジル、インドその他が含まれる。
2年目を迎える「第3の出版」モデルのユニークな戦略
これまでの約1年の間にKSのプログラムで出版されたタイトルは75点。読者のレイティングの平均は4.48(2,709レビュー)となっている。それなりの販売実績を上げたと思われる。これを国際化する意図は、国境を越えた出版が「読者が選ぶ出版」に相応しいと思われたからだろう。出版のプロほどローカルしか見ていないし。とくに米国でその傾向が強い。KSを国際化することで、出版の主体であるKindle Pressは自動的に、世界から素材を集め、出版する世界出版社になる。ただし、まだ英語のみ。当面は「英語出版」のグローバル化を目ざすという段階だ。
KSは「これまで日の目を見なかった新鮮な本が、読者の力で出版されます」というキャッチで登場した。「スカウト」という名称は、(1)読者にはタレント発掘に参加する機会を、(2)作家には出版界の常識から自由な読者に選んでもらう機会をそれぞれ提供しようという意欲を示している。未発表作品を募集してサイトで公開し、読者に出版の可否を投票してもらい、採用作品の契約と出版はKindle Pressが行うという仕組みだが、作家にとっての魅力は、審査が早く、採択されたら1,500ドルの前金が貰えることだろう。出版契約の期間は5年。印税率はE-Bookが純売上の50%、オーディオブックが25%、翻訳は20%となっている。なかなかに魅力的だと思う。将来日本語作品にも対応することになると、だと思われるので、出版社にもプレッシャーになる可能性がある。
「読者に支持された出版」という形態は、デジタル時代の社会現象として生まれ、日本でも「ケータイ小説」という先駆的な形態を生んだ。これがなぜ成功し、没落したかは重要なテーマだと思われるが、これは欧米でも関心を集め、ビジネスモデルとしての研究と拡張を刺激した。最も成功したのはWattpadだが、これも例外的なもので、ソーシャルな読書空間を、新人・未発表作品について成立させることの難しさを示している。アマゾンはWattpadの買収を検討したはずだが、今年3月に同じコンセプトのWriteOnを始動している。ただし、これは1年で機能させられると思えない。
KSのようなクラウドソース出版は、米国ではとくに中小出版社が試みているが、やはり編集者が前面に立った手づくりでなければ成功しないだろう。プラットフォームを重視するアマソンはまったくコンセプトが違い、伝統的な商業出版とインディーズ出版の中間の第3のモデルを構築しようとしている。今回の発表は、これが最初からグローバルなものとして構想されていたということだ。おそらく今後は以下のようなステップで進められるだろう。
- 米国で立上げ
- ローカル/インターナショナルな展開
- 翻訳によるグローバル化
あまり注目されていないが、村上春樹の成功を見るまでもなく、国境を越えた出版は大きなポテンシャルを持っている。英語出版を考えている著者・出版社は、KSを使って読者の反応を知ることでリスクを低減できる。アマゾンは出版の世界展開のプロセスを加速する。◆ (鎌田、09/10/2015)