ペンギン・ランダムハウス社(PRH)は、2015年前半の業績を発表。為替レートでのドル高も幸いして、前年同期比で16.2%の増収(17億ユーロ)、30.2%の増益という好調な結果となった。PRHのドーレCEOは、「最も楽観的な予想をも上回る、出版事業の成功」を自賛した。成長は、主としてベストセラー、買収によるものである。
親会社のベルテルスマンによると、営業収益(EBITDA)は2億700万ユーロで、これは前年同期(1億5,900万ユーロ)から3割増。為替の影響のほか、450万部を記録した 'The Girl on the Train'を始めとして、Grey, The Life-Changing Magic of Tidying Up、What Pet Should I Get?、Between the World and Meなど、各国で多数のベストセラーを連発したことが好業績につながったという。また、西語出版の PRH Grupo Editorial がラテンアメリカで躍進したことも貢献したとしているが、同部門は昨年f Santillana Ediciones Generales を買収してスペイン・ポルトガル語の総合出版社となっている。
同社はPRHの多数派株主(53:47)であるが、業績発表の場でトマス・ラーベCEOは、ピアソン社との間で持ち分を増やす提案を行っていることを明らかにした。2012年10月に締結した契約では、3年間は固定することになっているが、間もなくその期間は終了する。同氏は「出版はつねに弊社の心臓であり、それは不変である」とも述べた上で「ボールはピアソンのコートにある」と語っている。FTとEconomistを売却して「教育」シフトを強めているピアソン(旧ペンギン社のオーナー)との方向性の違いは明瞭であり。買い増しは自然なステップだろう。ただし、旧ペンギンの中でも教育に近いノン・フィクション出版があり、完全に手放すことはないだろう。教育は、ベルテルスマン社の第3の主力事業、ピアソンの基幹事業だ。
PRHは言うまでもなく世界最大の商業出版社であり、5大陸にまたがって250あまりのブランド、12,500人の従業員を擁し、年間1.5万点、8億冊を出版している。デジタル比率は、全世界で20%、米国で30%、ドイツ15%、スペイン語圏で10%以下。E-Bookのカタログ・タイトル数は10万点以上、2014年は1億冊を販売した。デジタルでは主としてマーケティング・インフラに力を入れているが、価格は敢えて高い水準を維持しており、シェアは30%台前半をキープする方針と見られる。
「合併してさらに強くなった」PRHに死角はないだろうか。短期的にはないだろう。買収によるブランド拡大とグローバルなマーケティング・インフラ強化という戦略を続けている限り、ビッグファイブの中でのシェアはさらに拡大すると見られる。しかし、E-Bookを成長戦略に絡めないという選択、が「角を矯め」ることになる可能性はある。トップレベルの人気作家は確保できるが、デジタルを使うことで収入増を希望する著者を満足させることは出来ないからだ。E-Bookの収入減と作家の収入における「シェア」低下が続けば、問題は拡大するだろう。それは利益率の低下に洗われるはずである。◆ (鎌田、09/03/2015)
参考記事
- First Half Results Rise at Penguin Random House
By Jim Millio, Publishers Weekly, 08/31 - Bertelsmann open to increasing stake in Penguin Random House, By Harro Ten Wolde, Reuters, 08/31/2015