独自のビジネスモデルで築くTolinoの「奇跡」♥

Tolino_logo2-280x150ドイツでアマゾンと対抗できている唯一のE-Bookプラットフォーム、Tolinoについては、4月にお伝えした。半年を経た現在の状況についてフォローすることは今回のFBF参加の目的の一つだったが、来日時にお会いしたクラウス・レンクル氏から話を伺った。欧州出版環境から生まれた独自のビジネスモデルは、余裕をもってアマゾンとの競争に堪えている。[全文=会員]

アマゾンの巻き返しにも動ぜず

アマゾン以外のE-Bookプラットフォームがすべて消滅あるいは低迷するなかで、後発ながら2013年に登場するやいきなり30%台のシェアを獲得し、翌14年には一時的にKindleを抜いたと伝えられた。ドイツ・メディアは「アマゾンの強力なマーケティング・マシンと互角に渡り合い、稀な勝利まで収めた」とTolinoに絶賛を惜しまない。参加する書店も増加し、欧州への展開も加速してきた。FBFの直前にはさらに数十店舗を持つ中堅の書店や独立系書店が参加を発表、勢いがある。好調ぶりは聞こえていたのだが、レンクル氏の表情も口調も前回と同じだった。

frederike-freundt-tolino-european-distributors-meeting-in-madrid-17-638今年に入ってから、アマゾンが47%を押さえてシェア・トップを奪回したが、Tolinoも42%を占めている(GfK)。iBooksは6%、Googleは4%、Koboが1%で安定しており、Kindle-Tolinoの2強体制に変化はない。アマゾンの巻き返しは当然予想したことで、レンクル氏は、とくにドイツ国鉄と提携して配信の体制を整備し、無償コンテンツなどのキャンペーンを行ったことが奏功したと分析している。しかし、彼はシェアに一喜一憂はしないという。重視しているのは、書店への浸透度とE-Bookの売上の伸び(前年同月)だ。その点で言えば、ドイツの約6,000の書店の1,800店に到達し、前年比成長率が21-42%(平均では30%あまり、月間180万冊あまり)を維持しているペースを維持していければ、アマゾンに離されることはないだろう。

f07ce0368d01471da7018ffc37f77d78短期的な競争はしない、とレンクル氏は言う。「石を一つ一つ積み重ねるように築いていきます。急げば無理が生まれ、先になってから問題が大きくなります。」というTolinoの考え方は、米国系企業のマーケティング指向の対極にあるものだ。「何世代もかけて大聖堂をつくるように?」と聞いたら、即座に「その通り」と答えた。この保守性がパートナーである書店とユーザーの信頼を集めている。今ではE-Readerはめっきり減ったが、Tolinoではこれは重要なデバイスで、ユーザーの51%がTolinoデバイス、47%がWebからの利用(多くはPC)でTolinoでバイスはアマゾン/Kindleと同じ大きな重みをもっている。最高解像度のKindle Voyage対抗製品も、近々にリリース予定。専用デバイス・ユーザーの2割あまりはスマートフォン/タブレットなどとの併用している。

米国でE-Readerの比率が下がっているのにTolinoユーザーが違う傾向を示していることについて、レンクル氏はユーザーの属性(相対的に高年齢)、コンテンツの性格(カタめの本)の問題であるとした。つまり、アマゾンは相対的に若く、都市型で、読む本が固定せず、書店との結びつきが強くない消費者に支持されているということだ。こうした対称(補完)性は、出版界にとっても良いことと言えるだろう。そしてTolinoは最も重視していた書店顧客に着実に浸透している。

書店のためのホワイトレーベル・モデルの優位性

以前にも書いたが、Tolinoの成功はビジネスモデルの勝利である。書店とE-Bookの組合せは、じつは最も自然なものであり、書店を介した読書体験の一貫性という点でベストだ。唯一の課題は、「誰の顧客、誰の売上か」という点だったが、ドイツ・テレコムがTolinoプラットフォームををホワイトレーベルとして提供したことで問題がクリアされた。顧客が書店を選び(書店が顧客を管理し)、売上は書店のものとなるということだ。書店の活用は誰もが考えることだが、KoboとABAのプログラムが示しているように、オンライン書店との提携は原理的に困難だ。

Tolino_store米国の独立系書店団体ABAに最初にアプローチしたのはGoogleだったが、自らを透明化することはしなかった。誰であれ、書店が大切な顧客を他に提供することはない。Tolinoでは、オンラインは裏方に徹し、書店と顧客の関係を支援する。考えてみれば、米国で生まれたオンラインコマースは、いずれも強いエゴを持っている。日本でも通信会社がやれば「大企業ブランド」を隠すことは出来なかったろう。ドイツではそれが出来た。このあたりは強い個人と組織の機能性を両立させるドイツ・サッカーを思わせるものがある。また無名の個人が何世代もかけて築いていく「大聖堂」でもある。人々は建築中のものから完成された姿(仮想現実)を想像しながら黙々と丁寧な仕事をする。

ブンデスリーガで日本人選手が高い適性を示しているように、日本ではドイツモデルが成功する可能性がある。かつては大企業でなければプラットフォームは不可能だったが、クラウド・サービスの普及で、Web上のホワイトレーベル・モデルは意外と身近なものとなった。Tolinoは現在、欧州での展開に主力を注いでいるが、日本にも関心を持っているとのことであり、登場する日も遠くないかも知れない。 (鎌田、10/22/2015)

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