シュプリンガーの戦略はデジタル重視

AS_logoドイツの世界的メディア企業 アクセル・シュプリンガー社が、米国のオンラインニュース・サイト Business Insiderの株式の88%を、創業者のヘンリー・ブロジェット氏から3億4,300万ドルで取得したことが報じられた。同社はすでに7%を保有しており、これで95%を取得したことになる。BIは3%をジェフ・ベゾス氏が保有していることでも知られる。

FTを断念した末に目をつけたニュース・メディア

BI_logoシュプリンガー社のマティアス・デップナーCEO(写真=下左)は、BIの買収について、デジタル読者を拡大するとともに、英語圏のデジタルジャーナリズム企業に投資するという既定方針に沿ったもの、とコメントしている。またブロジェット氏(写真=下右)も、独立ジャーナリズムに対するシュプリンガー社の寄与を讃え、未来志向のチームと合流できたことに満足の意を表した。同氏はBIの編集長として留まり、325名のスタッフとともに業務を継続する。編集長の個性の強いメディアなのだ。

アクセル・シュプリンガー社(AS)は、欧州最大規模のメディア・グループで、新聞・雑誌・書籍出版事業を展開する(独ベルテルスマン・グループの科学技術出版社シュプリンガー社とは無関係)。同社は英国の名門経済紙Financial Timesの買収を巡ってピアソン社と交渉していたことで知られていたが、結局FTは日経新聞社が1600億円で買収した。つまり、ASはFT買収を断念して、「英語圏の経済メディア」でもまったく傾向が違うBIというデジタル系のニュースを買収したことになる。「のれん」を求めた日経とは対照的な判断だ。

Brodget_Book1966年生まれのヘンリー・ブロジェット氏は、米国の投資家、実業家、証券アナリスト、ジャーナリスト、著述家といった多彩な肩書を持つが、ジャーナリストから証券アナリストに転じた。1998年にアマゾン株を推奨して有名になった一方で、2003年には「証券詐欺」の廉でSECから訴追されそうになり、200万ドルの没収と同額の罰金、証券業界からの永久追放を受け容れた経緯もある。狂乱のインターネット・バブル時代の余波だろう。その後ジャーナリズムの世界に戻り、一流の新聞・雑誌に寄稿。とくに投資関係記事で評価が高い。話も文章も巧みで面白いのだ。雑誌記事をまとめた『ウォール街護身術マニュアル:知的投資術入門』も売れた。

米国で成功するビジネスメディアの条件

AS_BIBusiness Insiderは2007年、DoubleClickの共同創業者であるケヴィン・ライアンとドワイト・メリマンから資金を得て立ち上げたもの。正確性と倫理性を重視する伝統的な「堅い」ジャーナリズムとは異なり、金融とIT、企業財務の知識が豊富で、企業分析や指数化、視覚化に強い。また、起業家とのネットワークを背景に「インサイダー」すれすれの情報を駆使し、軽妙なタッチで時にセンセーショナルな記事を書く、新しいタイプのライターを揃えたメディアだ。これを『ジャーナリズム」と呼ぶべきかどうかは見方によって異なるだろうが、BIが500億円あまりの時価総額になったのは、確かに旧ジャーナリズムよりも面白く、時には役に立つことがあるからだろう。それに、「紙面」から離れられない新聞系に比べて、サイトのナビゲーションは非常にうまくつくられている。

ASのデップナーCEOは英語圏のメディアを狙っていた。FTの買収に失敗した彼が、180度方向性が異なるブロジェット氏のBIに注目したのは、じつに興味深い。筆者なりの仮説を示すと、ASがFT買収に躊躇したのは金額とともに成長性であったと思われる。経済メディアの世界は米国のブルームバーグがリードしている。のれんが重すぎるFTは、米英の政策担当者との付き合いが深すぎて、彼らに使われてしまうことが多い。それはいまに始まったことではないのだが、現代ではネット上の代替情報へのアクセスが容易で、権威性のあるFTなどは逆に比較・吟味され、ネタがばれてしまうのだ。生きた情報を重視する米国の市場関係者、投資家は、むしろFTよりはBIのほうを選ぶだろう。デップナーCEO自身がそう思い直したとも考えられる。

ピアソンとて日経よりASを優先したかったのだが、ASはFTの市場価値とデジタル化のためのリストラ費用を考えて10億ドル以上を現金でという無茶はしたくなかった。ピアソンは交渉を長引かせたくなかった、という結果なのではないだろうか。 (鎌田、10/01/2015)

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