英国の若者の読書傾向についての新しい調査が発表され、デジタル世代でも印刷本がなお好まれている結果が出て出版関係者を喜ばせている。しかし「紙 vs デジタル」にだけ敏感な人が行うこの種の調査は、情報環境と情報行動という本質的な視点を欠き、無意味な情報に一喜一憂するだけに終わる。
本を読む者はフォーマットを選ばず
英国の書店業界誌The Booksellerが主催した Children’s Conferenceで発表されたのは、16-24歳を対象に調査会社 (YouthSight)が実施し、1,000人の有効回答を得た調査(パネル)の結果だ。それによると、印刷本とE-Bookを比べて、前者を好むとしたのが64%で、後者が16%、どちらでもいいが20%だった。読書の頻度は、E-Bookを読んだことがない人が32%、35%が月に1冊以下、8%が週に1冊以下、7%が週1冊以上。ただし、16-19歳では、20-24歳に比較してE-Bookを読む傾向が高い。E-Bookを月に1冊以上読んでいるのは、前者の14%に対して後者では半分の7%である。また少年・少女層ほどフォーマットの違いを意識しない傾向が強い。本は好きではないという回答は23%と、青年層の16%より少ない。
読書デバイスについては、回答者の43%が主にスマートフォンを使用、34%がKindle、27%がiPad、23%がラップトップ、以下、その他タブレット(19%)、デスクトップPC (3%)と続く。回答者の64%E-Bookの適正価格を3ポンド以下とし、3-5(約500-900円)ポンドなら買う人は26%だった。7ポンド(概ね10ドル)以上でもいいかという質問はなかったようだが、自由回答で「印刷本がE-Bookより高いのはおかしい」というコメントもあったようだ。
いずれも常識的に推定できる情報だ。E-Bookと印刷本のどちらを好むか?、というのは「パパとママのどっちが好き?」とか「現金かいいか振込がいいか…」というのに似ている(筆者はどちらでもいい)。5W1Hが重要なことなのに、調査のスポンサーはそれを飛ばしたり、あるいは恣意的に答を誘導するのに使おうとする。上記の調査で筆者の印象に残ったのは(パネルのプロパティは不明だが)本を読む青少年が確実にいること、そして500円を超えるとE-Bookは売れ行きがガクンと落ちる、といったことだ。
日本では若者が消費の主役として、あるいは未来の担い手として重視されなくなって久しいが、これは異常な状態(終わるべき)であることは言うまでもない。日本でも似た調査は行われるが、問題の所在と解決の方向を得られない調査は時間の無駄だ。◆ (鎌田、10/01/2015)