秋はガジェットの季節だ。アマゾンはKindle Voyageの2世代機リリースを予告(価格は200ドル)、在庫一掃セールを開始した。アップル iPad Proは11月11日に登場する。しかし、どちらもそう注目されていない。専用E-Readerの市場は低迷、iPadも販売が下降する中での登場だからだ。読書においてスマートフォンの比重が高まりつつある中でのこれらデバイスの意味は何だろう。
天才の創造はどこへ行ったのか
一時はPCに取って替るとまで言われたタブレットを代表するiPadの下落が止まらない。重要なことは、iPhoneの上昇とiPadの下降がペアになっていることだ。それはティム・クックCEOがジョブズの遺戒を破ってiPad miniを出し、さらにiPhoneをファブレット化し、それがiPadとしての進化を止めたためだと筆者は考えている。その結果、今日あるのは「iOSガジェットのサイズ別ラインナップ」であってiPadではない。ロジスティクスの人であるクックCEOが無視し、預言者ジョブズが恐れていたのはこのことだった。iPadが独自の進化を続けるためには、オリジナルのサイズを固定する必要があった。スマートフォンのライフサイクルが成熟から衰退に向かう時期に、改めてジョブズの遺戒が見直されることになるだろうがその間に失われるものを考えれば、惜しんで余りある。
iPadが、出版関係者のみならずメディアデザイナーの期待を集めたのは、もちろんKindleの独占への反撥ばかりではない。新しい読書空間の開発がiPadとともに進む期待があったからだ。ファンではない筆者でさえ期待した。しかしそれもジョブズあってのことだったようだ。iBooksをiOSの中に閉じ込めたことと並んで、出版にとってのiPad最大の失望の一つだと思う。初期アップルのファンはiPadの高価格を維持したことを「裏切り」とまで言っている。
E-Readerの役割は終わったか
さて、リーディング・デバイスとしてE-Readerが比重を低下させていると言われて久しい。タブレット vs. E-Readerが注目されたものだが、最近ではスマートフォンの普及に伴って、市場統計上こちらが注目を集めるようになってきた。米国のピュー・リサーチの調査で、米国成人のE-Reader保有率が2014年の32%から2015年に19%にまで低下したという数字が出ていたが、E-Readerの進化がタブレットと同様、いったん止まり、そしてタブレットがさらに安価になってきたのであるから、相対的にE-Readerよりタブレットが、タブレットよりスマートフォンが普及統計上位に来るのは不思議ではない。それは以下のようなトレンドがあるからだ。
第1に、ユーザーの多くは複数のデバイスを持ち、使い分けている。
第2に、Kindleリーダーの販売が大きく低下している傾向はなく、廃棄もされていない。
第3に、E-Readerの多様化はeリーディングの裾野の拡大を意味している
第4に、eリーディングは着実に増加している。
したがって、メディアデバイスの調査においては、(1)読書における複数デバイスの組合せと使い分け、(2)プラットフォームの選択、コンテンツ購入・管理における中心、(3)保有デバイスと購入パターンの関係、(4)デバイスの共有/譲渡、といった動態のほうに注目すべきだろう。◆ (鎌田、11/03/2015)