今年6月にKindle Unlimited (KU)の印税支払方式の変更を行い、関係者を一時的な混乱に陥れたアマゾンが10月30日、再び方式の変更を予告した。11月1日から適用され、具体的内容は不明だが、今回の変更はKUの世界展開(とくにインドなどへの拡大)に伴う市場要因の差の算入に関連したものとされる。版権者の実収への影響が注目される。
インドなどへの拡大で単一スキームでは限界
アマゾンは版権者たちへのメールで、KUを提供している市場の多様性が大きくなったことで「フリーサイズ」式のアプローチが限界に達したと述べ、例えばインドでは月額199ルピー(約3ドル)という価格としたが、その結果11月以降のファンドにこの市場の多様性を反映させ、国ごとの支払いには地域別の市場要因を考慮したものとなる、と述べている。詳細は月次レポートで明らかにされるが、「弊社の長期的な目標は、つねに著者たちの価値ある著作に十分に報いるとともに、世界中から読者を惹きつけ、より多く、頻繁に読むよう援けることです」としている。
6月の方式変更(反映は7月)では、支払ベースを閾値方式(10分の1以上=1冊)から読了ページ数へと大胆に変更した。著者の間に混乱は生じたが、結果としては満足を得られたことで、中小出版社のKUへの参加の増加を呼んでいることは本誌でもお伝えした通り。しかし、これで話は終わらない。アマゾンは米国、英国などの先進市場だけでなく、アジアや中南米を含めたグローバル・プラットフォームとすることを目ざしているためだ。現在、KUは10ヵ国に展開し、7つの通貨で価格を設定している。KUの定額市場の拡大は、一般的に版権者にとってプラスであるはずだが、バランスが崩れ、採算が悪化すれば減収になる可能性がないわけではない。
会員数と利用パターンは、もちろん国ごとに違う。消費者に対して設定する価格はむやみに変えられないし、変えられる範囲も限られている。採算を割れば(月ごとに設定されたファンドを原資とする)著作権者への版権料の配分に影響が出るが、それはグローバルなものとなる。インドを加えたことはかなり大きな不確定要素を抱えることになった。2012年にKindleを立ち上げているので、一定の蓄積はあるのだが、販売市場と定額制とは違い、読書量の推定は困難だからだ。インドでのプログラムには、外国とインドのタイトルを含み、インドのベストセラーフィクション/ノン・フィクションのほか、『バガヴァット・ギーター』などの古典、『ハリー・ポッター』などの子供向け人気タイトルまでが含まれている。アジアの中でインドを先行させたのは、Google、Koboおよび地元のFlipkartとの市場競争が激しいためだと思われる。
3ドルというインドでの価格設定は、直接的にはインドでの物価水準、本の価格を考慮したものと思われるが、人口と所得格差の大きい市場の価格設定は戦略的(長期的)な性格を持ち、それだけに版権者とのコミュニケーションと理解が重要になるだろう。後者の不満が高まれば、会費収入などの情報開示要求も出てくるかもしれない。◆ (鎌田、11/03/2015)