アマゾンが推進するメディア環境の改造:(2)統合と連携(♥)

amazon_videosアマゾンのStorywriterは、同社のビジネスモデルの重要なピースで、今後ますます重要性を増していくと思われるので、コンテンツをめぐるプロセスで「制作環境」が持つ意味を考えてみたい。これはプロとアマの両方を対象としており、自主出版のための簡易入稿ツールとは性格が異なる。コンテンツの上流工程の再編・統合を意図したものと考えられる。[全文=会員]

意味的構造のサポート:上流-下流の統合

出版プラットフォームは、Wordなどで作成した原稿を投稿用フォーマットに変換するツールを提供しているが、アップルやアマゾンなどはさらに上流工程の、専門的なコンテンツの執筆・編集への支援に手を伸ばしている。従来のワープロが、多くの点で商業的コンテンツに携わるプロのもの書きにとって不満の多いものだからだ。

process_vs_productWordなどのオフィス系ツールは主にビジネスレポーティングをサポートするように出来ており、DTPツールはデザインと制作にもっぱら集中し、その前の原稿とのつなぎはよくない。しかもパッケージのビジネスモデルとして固定化されていたデスクトップ環境からグループ/ネット環境への進化が遅れ、価格も高い。つまり「ワープロ」の進化はこの20年あまり進化していないと言える。メーカーのポリシーと市場環境のためにイノベーションが止まった典型的事例だ。ワープロ/ライティングに関わる環境は一変しているから、残る進化の可能性はビジネスモデルということになるだろう。

ワープロの進化の方向性は、意味的構造のサポートということだが、当然ながらこれはドメインごとに行われる。例えば台本には、場面、人物、セリフがあり、それらストーリー(構造)を通じてテーマとつながっている。人物にはキャラクター設定があるが、それらは様々なタイプの読者(細分化された専門のプロ)に理解されやすいように記述することが求められている。

この台本をワープロで作るにはかなり煩雑な作業が必要になる。つまり内容に集中できず、ミスが多くなる。台本は創作であるとともにビジネスドキュメントとしての性格も持っているので、エラーはコストとなってライターや関係者に及ぶ。プロセス全体として考えれば、コストは非常に大きいはずだが、ライターの能力とか全体の制作費の中に隠れてしまうので、問題は放置されてきたと言える。米国では多くの分野で専用ツールがあり、脚本家や脚本家のために働くエディターが利用している。しかし、今年で25年になるFinal Draftのようなツールは、機能的には進化しているものの、チーム環境、ネット環境への対応が遅れている。これはハリウッドを中心としたプロにユーザーが限定されてきたためだ。専門の教育を受けていない、あるいはキャリアのない「新人」に窓口がなかったことと関係がある。アマゾンはコンテンツ制作の世界を変えようとしている。それはツールをオンラインのプロセスに統合することを中心としている

ネット時代のライティングツール

アマゾンのクラウド・ライティングツールは、様々な点でネット時代のライティングツールの特徴を示しているものと考えられる。

  • ハード、OSなどに依存せず、ネットワークにも依存しない環境非依存。
  • 単一のツールではなく、サービスを複合した環境である。
  • 出版支援プラットフォームの一部として無償提供される。
  • テキストだけでなく動的データも扱う(マルチメディア)。
  • 汎用ではなく特定用途にフォーカスした「専用」であること。
  • 「個人」よりコミュニティ=コミュニケーションをサポートする。
  • 「原稿」をめぐるプロセス、コンテクストに注目し、ビジネスモデルを構成する。

tools機能得な特徴、技術的先進性といったものはあまりない。当座は、ScribnerやFinal Draftなどの、もの書き用スタンドアロン・アプリケーションと似たものとなるだろう。上述したように、この環境は、機能よりサービスを、個人よりコミュニティを、原稿よりはプロセスに注目しているからだ。

これまで、プロフェッショナル向けの専用ライティング・アプリケーションは、市場が小さすぎたので成長出来なかった。Wordのアドオンのような形が多く、独立した「用途限定」ワープロは、テキストの整形に関する限りWordに劣るのは致し方ない。しかし、より重要な点は、Wordフォーマット (doc)が一般化したために、いくら拡張機能を盛込んでも、ファイルが電子的に流通し、再加工される可能性が低かったことだ。つまりScribnerのようなもの書き専用ワープロは、プライベートなツールとして使わるしかなかったわけだ。Google DocsはWebとdoc/officeの間を行き来できる両生類のようなもので、進化が期待されたのだが、秀才らしく緻密さに欠けるこの会社らしく、これをプラットフォーム化する戦略に欠けていた(ように思えてならない)。

「アイデア」と「コミュニケーション」を重視するアマゾン

アドビは制作プロセスを中心として完成度の高いプラットフォームを構築してきた。デザインと制作のプロフェッショナルにとっては他の選択肢が考えられないほどだ。しかし、そのために「制作」が必ずしも中心ではない世界、「アイデア」と「コミュニケーション」が出版において大きな役割を演じる世界への取り組みが遅れた。その両端にアプローチすることでサプライチェーンを再構築する可能性を考えていなかった(あるいは無視した)のは、旧来のユーザーを考えれば自然なことだ。

他方、アップルのiBooks Authorは、すべてをiOSと結び付けなければ気が済まない前世紀の発想が変えられず、有効なソリューションとなっていない。アップル環境を愛するユーザーでも、仕事に使うには作成したファイルの流通性を優先するしかない。こうしたビジネスモデルの硬直性は、同社の利益を損なうことはなかったようだが、ユーザーの期待に応えず、市場の進化を主導する機会を逃したということで、長期的にはマイナスであろう。筆者は市場でのアップルの優位を、ガジェット・ファン、ブランド愛好家、クリエイターの3つの柱で考えているが、クリエイターこそが真の力の源泉だと思う。ティム・クックCEOは、巧みにデザインされたバランスを損っている。少なくとも、アマゾンに大きな機会を提供していることは確かだ。

アマゾンはコマース、クラウド、コンテンツ(3つのC)に同時にアプローチし、ガジェットを従とする戦略をとっている。ガジェット愛好家の支持は得られないが、少なくとも出版のステークホルダーはカバーできている。そしてメディアビジネスとしての先進性は、表現形式の多様性(書籍、映画・TV、ゲーム…)をサポートする制作環境の一体的展開と連携として実現されるだろう。全体のプロセスを動かすのはデータである。 (鎌田、11/24/2015)

Print Friendly, PDF & Email
Send to Kindle
Pocket

Share