二極化する出版:(2)エコシステムの再生 (♥)

midle classコンテンツと読者の関係を変えるメディアの革命は、「ふつうの出版」を脅かす段階に入った。しかし、その本質はあまり理解されているとは言えない。それは「デジタル vs. アナログ」の二分で世界を見てしまうためだ。現実に進行しているのはB5とアマゾンが競い合って、出版の風景を変えていく姿であり、紙と印刷が頑張っているかどうかなどは些末なことだ。[全文=会員]

二極に挟撃される中堅出版社

Faber-Factory-plus英国の名門出版社、フェイバー・アンド・フェイバー(FF)が提供していた独立系出版社のための販売プラットフォーム Faber Factory Plus (FF+) がサービスを停止することが報じられた。ロンリー・プラネットやニューヨーク・レビューなど米国の出版社も利用していたから、影響も少なくなかったようだ。FF+の撤退は、FF本体の赤字によるもので、代替が簡単に見つかるとも思えない。中堅出版社の共同流通エージェンシーとして注目されたものだが、その失敗は、グローバル大手と新しいインディーズ(MI)の間で中堅出版社の置かれた立場の難しさを示している。

書店営業に特別な体制を持っていない中堅出版社は、もともとマーケティングに強くないが、以下のような問題を抱えている。日本の出版社と同じだ。

  • B5を中心とした大手の書店マーケティング強化
  • デジタルマーケティングへの対応の遅れ
  • 自主出版ビジネスモデル(MI) の成長に伴う著者の出版社離れ
  • 書店・図書館市場の縮小と売上の減少
  • デジタルを含めた制作体制の再構築の遅れ

経営が厳しければ、著者にも大きな前渡金を提供できず、書店での売り場確保も難しくなる。新しい市場であるE-Bookでは著者との従来の関係を変える必要が生まれているが、大手と同じく強気で通すことは困難で、さりとてインディーズに譲歩することも難しい。従来のビジネスモデルが、現在の環境においては(紙でもデジタルでも)成り立たなくなっているのだ。そしてデジタルでもアマゾンでもなく、真の脅威はB5だろう。

B5の戦略的意図とその波紋

bigfive2筆者の読み方では、B5があえてE-Book市場をMIの蹂躙に任せているのは、書店において圧倒的な優位を確保することを優先するという戦略が背景にあるものと推定している。肉を切らせて骨を断つ、というわけだが、彼らの計算では、肉を切られ骨を断たれるのはB5ではなく、伝統的なエコシステムの中心であり、出版の多様性の源泉と言える「ふつうの出版社」なのだ。デジタルとはインフラであり、現在の力関係ではすべてがアマゾンに有利になるからだ(現状ではオンライン≒アマゾンを意味する)。これがB5にとって意図的誤爆かどうかは不明だが、いずれにせよ中堅出版社は無事ではない。

B5がマークする最大の敵はおそらくアマゾン出版だ。すでにE-Book市場ではB5レベルの実力を示しており、周到なマーケティングからみて、間もなく最大出版社となるかも知れない。すると「紙とデジタルを含めた最大出版社」も遠くはない。書店流通のシェア低下してオンラインが増加すれば、「紙でもアマゾン」となる。おそらく、次の5年でアマゾン出版がB5クラスの力を持つことを阻止することが直接的な目標となっていると思われる。規模を最大の武器とする巨大企業は、規模(の優位)を失えばすべてが失われると考えている。

E-Bookの市場の成長を抑制し、「ほんとうの本」の殿堂として書店を固め、直販を含むWebマーケティング体制の完了を待って価格面で攻勢に出るという戦略は、筆者からは時代に逆行する「無謀」に見えるが、出版よりさらに一回り大きなメディア企業を背景にしたB5の経営者は、規模のマーケッターだから、自然にそうした発想が出てくる。

「ふつうの出版社」「ふつうの書店」のサバイバル

ニールセン社の推定によれば、2014Q1 → 2015Q1の米国出版市場のシェアの変化は、MIが14→18%、B5が28→37%とシェアを増やしているのに対して、様々な規模の出版社を含む旧インディーズ(OI)は58→45%と半分を割っている。同社のデータはISBNベースなので、非ISBNが多数を占めるE-Bookを十分に反映してはいないことを考慮すれば、印刷本ではB5がシェアの過半を占め、E-Bookでは逆にMIが過半というのが実態かも知れない。これが二極化であり、ニューヨークタイムズなど「嫌デジ」派には紙の復活とE-Bookの凋落に見えるし、親デジ派には逆に見えるのである。

B5の対アマゾン戦略の最大の問題は、これは「ふつうの出版社」「ふつうの書店」への打撃となる、ということだ。砲撃はアマゾンには届かず、伝統的な出版コミュニティに着弾する。これは「ふつうの出版社」にとって大きな脅威を意味する。もちろん中小出版社の本を愛する「ふつうの読者」にとっても。「ふつう」の人々はおっとりしているから、出版物の中身と同じくらい経営や技術に関心を持つような人はほとんどいない。だから、この30年間のメディアやテクノロジー、マーケティングの変化も、ほどほどにしか関心を持たなかった。遅れて付いていけばいいと考える人がほとんどだ。仕事の内容にプライドを持つ分、商売上の競争意識はほとんどない。「ふつうの出版人」は従容として運命を受け容れてしまうかもしれない。しかし、それでは困る。ビジネス・オンリーではない出版の世界を守り、再構築できるとすれば、「ふつうの出版人」しかいないだろう。。

B5とアマゾンは激しく競争しつつ(いや競い合って)出版の原風景をダイナミックで華やかな(あるいは空虚で殺伐とした)ものに変えていくだろう。本誌は「ふつう」が中心となる市民的エコシステムを、デジタルを中心としつつも非集中的=融和的ビジネスモデルとして機能する可能性を考えてみたいと思う。それは「ふつうの出版社」「ふつうの書店」「ふつうの読者」によって可能となるものだ。 (鎌田、11/26/2015)

Comments

  1. App Store Demo says:

    「普通」=大きな意味で停滞とも受け取れそうです。
    経済活動が生き物ならば、停滞は変化に飲み込まれます。
    生き残りをかけるならば環境に合わせた変容は必然だし、必要です。
    変容した姿が、消費者にとって「普通」ならば問題ないのでは?

    もっともその変容の過程が、企業にとって生死の明暗を分ける大事なのですが…。(←とくに現代の経済活動の普遍的状況とはいえ、まさにジレンマ)

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