FBF2015/Business Clubではニールセン社のジョナサン・ストルパー氏が、同社の最新調査データに基づく米国市場の概観を発表している。ジョー・ワイカート氏が効果的に要約したものを書いているので、使わせていただいて筆者なりのコメントを述べてみたい。同じデータをもとに、B5にはどんな世界が見えていたかが分かる気がする。[全文=♥会員]
「戦況報道」ではB5は勝っているが
1. ニールセン社の推定によれば、B5は勝者。2014年Q1→2015年Q1で、E-Book市場における自主出版のシェアは14%から18%に上昇した。他方でビッグ・ファイブ(B5)も28%から37%にシェアを伸ばし、その他の出版社は58%から45%に減少した。N社では、自主出版とB5がシェアを伸ばしたと述べているが、価格を上げたB5がシェアを上げたというのは俄かに首肯しにくい。対比するとすれば、AERのレポートだろうが、N社はISBNベースの出版社データ、AERは「アマゾンのベストセラー」からの推定なので、調査方法の差がこの違いとなっていると思われる。どちらが実態に近いかと言えば、本誌は後者を支持している。B5も売上を減らしているのにシェアが上がるというのも理解できない。14Q1→15Q1の特異な事情なのかもしれない。
2. 印刷本とE-Bookの推定比率は74:26。ジャンルによる差は大きく、10%台から50%近くまでのばらつきがあるというが、ISBNベースで捕捉可能な市場のP/Eバランスが3/1であることを留意しておきたい。B5はこれが1:1になることを悪夢と考え、阻止するための行動をとったのだろう。Pが50%を割るということは、書籍市場全体としてみても、書店チャネルがマイナーな存在になり、アマゾンが圧倒的になることを意味しているからだ。
消費者は価格に敏感で、安ければEを選ぶ。しかし…
3. 価格がE-Bookへ惹きつける。消費者調査の結果は、筆者などにはベースの少ないシェア調査などよりも興味深い。消費者の6割近くは、価格差が4ドル以上あればEを選択するし、約半数は2-3ドルでもEを選ぶ。これは消費者のデジタル志向はむしろかなり強く、紙への回帰などというNYタイムズの記事が根拠なき願望であることを示している。だからこそB5は、いかに強引と見られようと価格引上げを行ったのだ、と納得できる。重要なことは、出版社のパニックより消費者行動だ。ほんとうに価格だけなのか。それともデジタルで「多読」「濫読」の愉しみを知ったからなのか。
4. 消費者は両方を購入している。調査対象の49%は、過去半年間にPとEの両方を購入したと回答しているが、42%はPのみ、9%はEのみと分かれている。ワイカート氏は、消費者がEを買ってもPを捨てたわけではないことは、出版関係者が見落としがちであると指摘している。「EがPを補うことは十分に可能なのに、なぜ…」というのは、デジタルの本質を理解している人の嘆きだろう。現実には出版界を動かしているのはEを病的に嫌悪し恐怖する人々で、彼らはEを購入する消費者を罰しようとして消費者と著者を自主出版に走らせている。
5. アマゾンは定額制市場も独占。ニールセンによれば、定額制サービスへの加入率はまだ5%未満でかなり小さい。アマゾンのシェアはかなり大きく、しかも伸びている。2015年1月の推定40%が4月には60%というから勢いもある。すでにScribdもOysterも微小な存在で、しかもますます小さくなっている。
市場の転換期というのは、あらゆるインフラが有効性を急速に喪失していく過程なので、市場のメトリクスのシステムも手法も同じ運命に遭うのは仕方がない。インフラ・ビジネスであるニールセンには、BISGが放棄した新しいインフラ構築を継承してほしい。さもないとアマゾンが正確な市場データを独占し続け、出版社は書店の衰退と運命を共にするしかないだろう。市場動態、消費者の読書行動をフォーマットやチャネルを横断した形で観察できないと、まともな経営/マーケティングの判断は困難になる。◆ (鎌田、11/12/2015)