欧州で台頭する新思考の「定額制」モデル(♥)

BookBeatOysterの撤退とアマゾンUnlimitedの拡大で、定額制の将来に暗雲が垂れこめたと考える人は多いかも知れないが、新しい傾向として出てきたのは、流通系ではないメディア企業による参入。ディズニーの事例を紹介したが、欧州でもスウェーデンのボニエ、ドイツのバスタイ・リュッベが参入を発表した。これらの定額制はどう違うのだろうか。[全文=会員]

北欧の総合メディア企業はデジタル戦略の核に

330px-Bonnier_group_logo.svg北欧(本社スウェーデン)の老舗出版社で総合メディア・グループのボニエ(Bonnier)は、「戦略的投資」として定額制デジタルコンテンツ・サービス BookBeat を発表しており、既刊および新刊のE-Book/A-Bookの提供に向けてシステムを構築している。立上げは2016年早々と見られる。もちろん北欧だけでなく、欧州・米国にも提供される。Bookbeatはグループ企業のタイトルだけでなく、他社のものも扱うが、版権料の支払方式は、Scribdのように小売価格に基づくものではなく、アマゾンのように予めプールされた基金の中から支払われる形がとられる。

欧州の定額制サービスとしては、すでにロシアでBookmate、デンマークではMofibo、ラトビアのFabulaがサービスを提供しており、これらも欧州に展開している。しかし、複合メディア企業で米国でも40あまりの雑誌を保有するボニエの場合、これらのスタートアップのビジネスとは性格がまるで違う。米国で言えば、CBSやハーストが行う定額制サービス事業の最初に書籍を持ってきたというものだからだ。同社が「戦略的」というのは、新聞、雑誌、放送、映画の4事業のコンテンツの提供形態の転換を見据えてのことだろう。書籍を先行させ、映像系に展開していくと思われる。グローバルなメディア企業にとって、これは自然な展開で、定額制に否定的なビッグ・ファイブ(B5)とは対照的だ。

B5もメディア・グループの傘下にあるが、グループ内での力が強く、小売価格を管理して利益を最大化する戦略を通せるということだ。逆に言えば、親会社の判断によって変わるということでもある。それを避けるためにも、B5はさらに巨大化し、伝統的市場の停滞も続くということだろう。メディア企業はアマゾン 'Unlimited' を範とせざるを得ない。デジタル化されるunlimitedなコンテンツがあり、消費者は有限だから「定額」は当然の帰結なのだ。

ドイツBLは雑誌的コンセプトを導入

Bastei_Lubbe他方、バスタイ・リュッベ(BL)はドイツ・ケルンの出版社で、書籍とオーディオブックのジャンル・フィクションを中心としている。BLが2016年4月にデビュー(6月に本格稼働)する定額制サービスは oolipo。同社はBeam という直販E-Bookストアを持っているが、別の名前をつけた。リリースによれば、「短編とマルチメディア読みもの」にフォーカスし、大部分がスマートフォンやタブレットに最適化された新規の独占コンテンツやシリーズで構成されると予告し、ライターまで募集している。米国にも前例はなく、オリジナルなコンセプトは大いに注目される。

oolipo-ebook-streaming-made-by-bastei-luebbe-300x300oolipoは、連載読み物を中心とした雑誌的なスタイルをとる。これは多くのタイトルを並べた書店ではない出版社として定額制を利用する最も有効な方法であると思われる。そしてモバイルにフォーカスしてマルチメディアという新しい表現手段をとっているところも期待を集めるだろう。さらに、ドイツの出版社ながら英語・独語の二本建てで世界展開を志向することも新しい。ドイツ・フィクションの英語翻訳タイトルの成功はすでに実証されており、oolipoはそこでも新市場を開拓することになる。最大の課題は、当然のことながら購読者の数が確保できるかだが、その点ではスタートアップよりも成算がありそうだ。

これまで出版における変化の担い手は、アマゾンと米国のスタートアップが中心だった。欧州勢はその後追い/ローカライズだったが、2014年にTolinoが新しいビジネスモデルを成功させたことで、トレンドが変わったと筆者は考えている。ボニエやBLはともに独自の世界戦略を持ち、定額制を出版社による(将来の)コンテンツ直販の中心モデルとして位置づけている。すぐに成功するかどうかはともかく、方向性としては正しい。ボニエの場合は、後ろ向きなビッグ・ファイブ(とその親会社)に取って代わりメディアビジネスの主導権を握る意思が感じられる。もはや米国の動向だけに注目すればよい時代は終わった。 (鎌田、11/05/2015)

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