オーディオブック2016年展望 (3):図書館とマスマーケット(♥)

Audio-Logo本誌がA-Bookに注目する理由は、これが既存の商品と競合しない「新市場」で、それゆえに米国でも障害に遭うことなく成長していること、そして本が持つ未知の(忘れられた)機能と可能性を起動することで出版の再生・再構築につながると考えられるからだ。以下では、市場の拡大要因となる市場や動向を見ていく。[期間限定公開=1月14日まで]

図書館市場での拡大はE-Bookより容易

New-York-Public-Library-300x218図書館は伝統的にA-Bookの重要な市場である。E-Bookと違って、貸出回数制限もないし、1年毎の再購入が必要になることもないので、図書館の経済的・心理的負担は少ない。そのうえデジタルによるサービス環境は、テープやCDの時代とは比べて格段に扱いやすい。しかし、コズロウスキ氏から見ると、図書館向けA-Bookの分野では、デジタルの可能性を生かした、見つけやすさを改善するツールなどのイノベーションがないという。

そのなかで彼が現在注目するのは、図書館向けベンダーのMidwest Tape LLCが2013年に立ち上げたメディア・ストリーミングのHoopla(オハイオ州ホランド)だ。Demand-Driven Acquisition(要求駆動型購入)というコンセプトに基づいており、図書館はHooplaのカタログをもとに貸出を行うが、利用者がA-Bookをチェックすると、支払には利用に応じた精算方式がとられる。図書館の予算額を超えないよう、様々な形で閾値を指定することが出来る。HooplaはiOSとAndroidデバイスで利用できる。

2014年には63万点であった利用数は、今年には約3倍の300万点に達するという。Hooplaのカタログは2014年に1万2,000点と、かなり貧弱で2015年でも2万1,000点に過ぎない。来年中に3万点という計画を発表しているので、同社が意識的に点数を抑制しているか、あるいは要求駆動モデルでは出版社との契約が進まないのか、どちらかだろう。しかし、対象点数を絞り込んでも利用数が増加しているということは、カタログの点数と図書館でのA-Book利用数には単純な比例関係がなく、UI/UXなど別の要因も少なくないいことを示していると思われる。

Hooplaをはじめ、3MやBaker and Taylor、Recorded Booksなどの大手図書館ベンダーがFindaway(前号参照)のプラットフォームを利用しているのに対して、楽天の傘下に入ったOverDriveは独自出版社との契約を進め、プラットフォームを構築することで貸出市場での主導的な地位を築いてきた。2014年時点のカタログには、約100社から6万点あまりを収録している。サービスは北米だけでなく全世界をカバーしており、昨年の聴取回数は3,200万回に及んだ(最新の数字は新年早々に更新される予定)。コズロウスキ氏の記事には、OverDriveのマーケティング担当・デイヴィッド・バーレイ部長の「E-Bookと違って、A-Bookには特別な投資を必要としない」というコメントを紹介しているが、サービス側だけでなく、図書館やユーザーにとっても言えることだろう。

ナレーターの質の向上とブランド化

Stephen FlyA-Bookがビジネスとして拡大してきたことで、出版社も人気ナレーターに対して高いギャラを支払うようになっている。『ハリー・ポッター』シリーズ全7巻の朗読を担当したジム・デイルは、実に134種もの声色を使い分け、空前と言える評価を得たが、古典名作(ディケンズ、ヴェルヌ、バリー)でもそのパフォーマンスを遺憾なく発揮している。古典や人気作品では、同じ作品で複数のナレーターが競うことになるのは当然で、それが市場をさらに活性化させるだろう。

今年Audibleは英国の俳優・作家・司会者+のスティーブン・フライと契約し、『ハリー・ポッター』を新たに刊行したほか、盲目の探偵マックス・カラードスが活躍するアーネスト・ブラマー(1868-1942)の古典推理小説 'The Coin of Dionysius''The Game Played in the Dark' を刊行することを明らかにしている。才人フライは朗読が好きなようで、これからも多くの名作に新たな生命が吹き込まれることが期待できる。Audibleは有名俳優を起用して成功させているが、マシュー・ソーントン副社長は、A-BookのUXを向上させるために、ナレーションの質的向上を重視していると述べ、これまでに契約した有名俳優や若手人気俳優のリストを示している。なかにはダスティン・ホフマンやケイト・ウィンスレットなどの大スターも含まれている。

知られざる演技派やアイコン(ビッグスター)がA-Bookに登場することで、確かにこの世界のステイタスが上がるだろう。これには2つの意味が含まれている。しだいに存在を大きくしている自主出版A-Bookに対するブランドの訴求と、市場のグローバル化である。コズロウスキ氏のレポートが最後にこの2つを取上げているのは的確である。 (鎌田、12/31/2015)

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