オーディオブック2016年展望 (4):プラットフォームとブランド(♥)

a-books活字とつながってはいるが独自なメディアであるA-Bookには、そのためのサービス・プラットフォームがある。しかし、A-Book市場で起きている現象は書籍出版と同じである。この区別と連関、ズレと同期は興味深いビジネスチャンスを生み出している。とはいえ、ここでもアマゾンは傘下のAudibleを通じて巧みにマーケティングを進めている。[期間限定公開=1月14日まで]

Audibleのプラットフォーム戦略とACX

ACXアマゾンはKindleで自主出版を著者にとっての有力なビジネスモデルとして確立した。この市場は自律的に成長しており、E-Book市場では商業出版社と比肩するまでになっている。出版社がE-Bookの価格水準をコントロールしようとしても、自主出版の成長を加速するだけなので、2016年には対応を変えてくるだろう。アマゾンは自主出版(KDP)によってE-Book市場の覇権を維持したのである。自主出版の戦略的重要性はA-Bookでも変わらない。ビッグファイブはハリウッド資本と組んでA-Bookのブランド化を推進するだろう。Audibleは、ブランドと自主出版の両面で対応する。

Audible Creation Exchange (ACX)は、E-BookのCreate Spaceに対応する支援サービスだ。未使用のA-Book化権を保有している著者、これはマッチングサービスで、出版社はACXを通じてナレーターを選び、スタジオを使って制作することができ、その逆もある。この仕組みを使って、著者/出版者は、ナレーター/スタジオを雇用したり、チームを組んで共同出版することもできる。後者の場合は事前費用はゼロで済む。またA-Book化版権の登録センターの機能も担うので、商業出版社がここで出版可能なE-Bookタイトルを発見することが出来る。

ACXは自主出版者向けのサービスであると同時に、商業出版社、ナレーター/スタジオがともに利用できるA-Bookビジネスのインフラでもある。アマゾン/Audibleはこうしたエコシステムを構築している。コズロウスキ氏のレポートによれば、すでにACXを使ってAudibleやiTunes、Webサイトなどで出版する自主出版者はかなりの数になるという。

A-Book自主出版の課題

自主出版はAudibleの独占状態が続いてきたが、二番手のAudiobooks.comがAuthor’s Republicを開始したことで競合が生まれた。これはA-Bookのインディーズ出版を支援する仕組みで、多くの販売プラットフォームへの配信を容易にするものだが、対象には、Audiobooks.com、Audible、iTunes、Amazon、Barnes & Noble、Scribd、Downpour、Tuneinに加え、図書館向けのFindaway、Overdriveも入っている。これらでA-Bookの商業プラットフォームのほぼすべてが網羅されると思われる。

ただし、コズロウスキ氏によれば、著者の期待に反して、A-Bookで得られる平均的な版権料は実売価格の35%ほどで、AudibleやiTunes、アマゾンなどの大手では25%(非独占の場合)という。これはE-Bookと比べるとかなり悪い。Author’s Republicは、出版権の地域制限のために北米市場へのアクセスを得られない著者/出版者に対して「裏口」を提供することで、北米での出版を促している。その他Author’s Republicのサービスには、柔軟な価格設定、PayPalを通じた版権料の月次清算、ISBNの無料取得などが含まれている。

recording成長途上のA-Bookには課題も多い。同氏によれば、現在のA-Book自主出版の課題は、まず活字出版を経ないオーディオ・オリジナルを流通に乗せるが絶望的に難しいことだという。それに、録音・製作はしろうとが考えるほど簡単ではない。出力レベルを一定に保ち、ノイズを抑制し、適切な「間」をもたせることは聴取体験(UX)に大きな影響を与える。これらは活字出版におけるレイアウトや組版にあたるものだが、組版ほど自動化が完成されていないから、様々なスキル・レベルのエンジニアに頼るしかないが、彼らはスタジオの一部であり、高額な設備はまだ償却が終わっていないことが多い。だからプロフェッショナルなA-Book出版はコストがかかる。しかし、これはかつての活字出版と同じで、急速に変化する。「プロの常識」が1年で通用しなくなるだろう。AudibleのACXなどは「入稿仕様」を公開することで、A-Book制作の敷居を低くしようとしている。録音レベルの設定(ピーク+RMS)などが具体的に指定されている。

プロになる必要はないが、少なくとも本を読み、レコーディングの講習を受けないと、RMS二乗平均平方根=Root Mean Square)などの専門用語を聞いただけでダウンしてしまうだろう。文字組版と同じく、デジタル・レコーディングの環境は進化したのだが、この分野のリテラシーは平均的に高くない。文系に越えられないハードルではないが、尻込みする人にとって、その代価は安くない。米国はアマチュア・レコーディングの水準が高く、プロの世界ともつながっているので、A-Bookの市場が認知された現在、A-Book向けのツールやサービスは急速に進化することは間違いない。 (鎌田、12/31/2015)

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