アマゾンは12月1日、先週末の“戦果”を発表し、昨年の3倍という記録的な数のデバイスを販売したことを明らかにした。とくに50ドルのKindle Fireは「数百万台」ということで、久々に存在を示したことになる。新製品を出さなかったKindleリーダも「数十万台」を販売するという堅実ぶりだ。アマゾン流のガジェット戦略は、大きく前進したとみてよいだろう。
最も地味な「記録的ヒット」商品:50ドルFire
Kindle Fireの米国での配送予定は12月24日となっており(日本では翌日)、地味な中身と比べて異常とも言える人気ぶりを示している。ガジェットから遠く離れることで、アマゾンサービス専用タブレットとして目的を達成したということだろう。対応アプリの少なさは最初から制限をしているわけで、タブレットと思って間違って買った人は、ルーティング(改造)してAndroidタブレットとして使えばよい。アマゾンはKindle Fireをアマゾン専用メディアとして使ってほしいようで、他社の読書アプリは、そのままでは利用できないようになっているからだ(不思議なことに映像系は制限をかけていない)。
50ドルという価格とアプリの数を増やす政策をとっていないことは、これがアマゾン専用メディアであり、汎用タブレットではないことの表明である。だからアマゾンが損をしているのではないかなどと考える必要はない。50ドルの汎用タブレットはざらにあるし、それでも利益を上げられる計算になっている。アマゾンは、ショッピングとコンテンツ消費の面的拡大のために、最低価格で専用デバイスを販売した。年間1,000万台規模になれば相当の売上をもたらすことになるだろう。ガジェット・ファンを満足させる内容ではないが、一般メディアの評価は高い。ユニークなデバイスで失敗となったFire Phoneの失点は、何の変哲もないデバイスで回復されたようだ。
7型Fireはアマゾンの最も負荷の大きい映像系、ゲーム系を中心としたクラウド・サービスと連携するように設計されている。画面解像度をリーディングには「最低」レベルに留めたのもそのバランスの結果だろう。そのユーザーも大型の画面には関心がない、13インチ以上の画面が欲しければ、TVや大型ディスプレイを使えばいいからだ。そして4K以上の映像を望むなら Fire TVがある。これはFireに続いてアマゾンの販売ランキングで2位につけた。前年同期比6倍は不思議ではないが、発売以来、量販店でもストリーミング・プレイヤーでトップに立っている。日本では売っていないが、SmartThingsのスピーカー EchoもAmazon.com(100ドル以上)の同社商品ランクで3位になった。
全体の印象として、アマゾンのガジェットはクラウド連携の色彩を強めており、汎用的なKindle Fireタイプと、高性能・単機能なFire TV、Echoタイプを、50-100ドル価格帯で計画的に配置している。そうすることで(米国では人口普及率、世帯普及率で数えられるまでになった)プライム顧客の消費を最大化する最適解ということだ。アップルの商品構成が極端な一点集中であるのとは対照的で、アマゾンはすべて面的、立体的だ。ガジェットとしての面白味はないが、最低価格で最大の満足が得られるし、毎年更新されるモノに心を乱される(躍らせる)ことがないほうがよい平均的消費者マッチしている。いつも期待が大きいアップルの「iPhone一本勝負」が限界に近いことは事実だが、限界近くが最も利益率が高く、その限界を延ばす経営者の能力が高いので、iPhoneの次は見えないが、業績レベルでのほころびも見えない。◆ (鎌田、12/03/2015)