創刊1年あまりで、米国E-Book市場の構造変動を示す四半期定点観測データとして不動の地位を確立した Author Earnings Report (AER)が12月1日、英国版11月号(11月1日採録)をリリースした。英国は米国と同じ市場特性を持っており、コンテンツの一部を米国と共有しつつ、高い成長率とデジタル比率の伸びでは米国を上回るので、比較対照する価値は高い。
米国のパターンを踏襲する英国E-Book市場
本誌が一貫して注目してきたAERが大西洋を越えて英国をカバーすることになった。Kindleに特化した定点観測レポートだが、Kindleのシェアは米国よりむしろ大きいので同じ調査方法が通用する。AER英国版では、価格設定、出版タイプ別の市場シェア、ISBNの通用度、米英ベストセラーの重複度といった基本情報を知ることが出来る。以下、主なデータを見ていこう。
英国版もKindle UKの売上の60%をカバーする、売上上位11万5,000点を対象としている。タイトル数のシェアでは、中小出版社が45%と最大で、インディーズ(28%)を個人その他(12%)と併せた40%を上回っている。ビッグファイブ(B5)は14%。売上点数のシェアでは、B5が31%となり、インディーズ(26%)と中小出版社(24%)がほぼ並ぶ。そして点数では1%だったアマゾン出版が15%でおそるべき効率を示している。もっともこれには10月下旬の無料キャンペーンの影響が残っていた可能性もあるという。
米国と比較すると、B5がほぼ同じであるのに対して、中小出版社のシェアは米国(19%)よりも5ポイント(24%)高く、インディーズは米国(38%)より12ポイントも低い。これはインディーズ本の販売価格が米国より若干高いことと関係があるようだ。興味深いことに、平均価格をみると、B5は英国では26%あまり安く販売している。これはアマゾンとの契約更新期のズレに関係しているのか、それとも政策的なものかは不明だ。たぶん前者だろう。
販売タイトルに占めるISBNの取得率は75%あまりで、米国の63%%をかなり上回っている。販売金額では84%にもなり、英国市場ではISBNベースの市場統計が、タイトル数の4分の3、販売金額の8割台を捕捉していることを示している。AERは、これは米国の過去の数字をなぞっているものと見ている。
著者に転嫁される「高価格」の負担
売上金額のシェアでは、B5は44%、中小出版社が21%、アマゾン出版が12%と、出版社系が77%を占める。AERはB5のシェアは米国と同じだが、金額的には米国の売上は、そこから手数料(30%)が惹かれるのに対して、英国ではアマゾンが卸値以下の値引き分を負担した後の金額なので、出版社の取り分は100%に近いはずだと指摘している。逆に言えば、英国ではアマゾンが値引き分を負担して出版社がより多くの金額を得るのに対して、米国では値引き不可の高価格で販売するために、高い小売価格にもかかわらず、より少ない金額しか得られていないということだ。B5が販売しているタイトルは米国と同じものが多いので、この数字はE-Bookの高価格が売上の低下をもたらすことを明確に示している。そしてB5が選択したエージェンシー価格が英国にも及べば、それは改めて実証されるだろう。
著者の実収入におけるシェアでは、インディーズは31%と、B5と拮抗する。アマゾンは15%と、売上金額のシェアよりやや多く、中小出版社は20%とほぼ同じ。結局、B5だけは著者により少なく配分していることになる。つまり、B5からの出版は得られる金額からみると、著者にとってのコストになる可能性が高いことになる。もちろん、B5は書店で圧倒的に強いわけだから、著者にとってメリットがあることは事実だが、それはE-Bookにおける不利を補って余りあるとは限らない。
AERはさらに英国版を出した最大の動機である、「インターナショナル・ベストセラー」の分析を行っている。これは次に検討する。◆ (鎌田、12/03/2015)