AER英国版は、2割以上のタイトルを共有する米国市場と対照させることで、これまで見えてこなかったE-Book市場の底流での動きを照射している。それには常識とは真逆のことも含まれる。確認されれば、出版界はデジタルの新しい可能性を知るだろう。ビッグファイブはグローバルではなく、インディーズはローカルではなかったということだ。[全文=♥会員]
ビッグファイブは張子の虎だった
AER英国版が対象とする11万5,000点のタイトルの中で、ほぼ2万7,750点は米国のリストと重複する。率にして24.1%、4冊に1冊が「国際版」で英語タイトルの市場性を示している。これをより階層的に見ると、上位10万点で29%、同1万点で36%、同千点で42%、同100点で43%となっている。売れる商品ほど重複するのは当然のことだが、出版タイプ別に見ると国際的販売力はかなりばらつきがある。Kindle市場を熟知しているアマゾン出版は別格のパフォーマンスを示す。
英国(Amazon.co.uk)の上位10万点が米国(Amazon.com)でどのように売れているかを示した図では、インディーズ系で差が大きいのは当然として、アマゾンに比べたB5のパフォーマンスの悪さが目立っている。それは中小出版社よりも悪く、インディーズと並ぶほどである、AERはグローバルな大出版社の異常なパフォーマンスの低さを疑い、ダブルチェックしたと述べている。
- 英国のインディーズ・ベストセラーは、在来出版社の約2倍も、米国で成功している。
- 英国のB5ベストセラーの販売実績は、一部のメガヒットを除けば中小出版社よりも低く、インディーズの半分である。
- 英国が例外である可能性を考慮して、逆方向もチェックしたが、米国から見ても結果は同じで、米国のインディーズ・ベストセラーの英国での成功率も同様に高かった。
インディーズこそグローバルである!?
そこでAERでは対象を絞り込んで、上位1万点、1千点、上位100点を比較してみた。上位1万点は1日に数点以上の販売を意味する。米英両市場でそれなりの売行きを示した上位のタイトルでは、グローバル出版社の力は遺憾なく発揮されるはずだが、結果はさらに意外なものだった。英国で成功したインディーズ本の半分以上が米国でも成功しており、米国の本も同様なのに対して、B5が強かったのはそれぞれのホームグラウンドだけだったのだ。ベストセラー上位本ほど、B5の内弁慶ぶりは顕著になり、インディーズのグローバルな強さは明確になっていく。そして米英でコンスタントな強さを発揮しているのはアマゾン出版だが、これはストアのマーケティング能力ということなので単純には比較できない。ただし、著者から見て、アマゾンが頼りになるパートナーであることは言える。
- 上位1,000(英国で1日15-20冊以上)ではインディーズ本の75%が米国でも上位1,000に並ぶのに対して、B5の登場率は25%。
- 上位100(英国で1日150-200冊以上)では、インディーズ本の3分の2以上が米国でも並び、3分の1は米国のほうが多く売れている。つまり実数では5倍以上を売っている。B5本で米国で成功するのは3分の1以下で、J.K.ローリングスやE.L.ジェームズなど数えるほど。
- アマゾンは米国販売のパフォーマンスが非常に高く、8割近くが米国でも成功し、すべて米国のほうで25%以上多く売っている。B5本は米国ではさして強くない。
AER英国版11月号は、海外市場にアクセスするには世界的出版社が近道、という常識は(E-Bookに限ってみれば)事実と正反対であると結論づけている。E-Bookほど海外販売は容易なはずであり、B5の本がよりローカルであるということはないとすれば、B5のマーケティング力はグローバルには機能していないのかも知れない。ホームに強いB5は、海外本のマーケティングに本気になっていない可能性も強い。日本の大出版社が日本の著者の英訳本出版に積極的でないのも、パートナーとなる版元が探しにくいからだろう。だとすれば、まずはインディーズでいくしかないように思われる。
AER-UKは、米国のトレンドが英国でも踏襲されているという、誰もが納得しそうな事実とともに、グローバルB5が、じつはインディーズほどにもグローバルでないという驚きをもたらした。なんにせよ、1回(1日)のデータで多くを語ることは出来ない。しかし、インディーズにも海外での成功のチャンスが広がっていることは確かなようだ。◆ (鎌田、12/03/2015)