誰が出版社を潰すのか

bankruptcy英国のインデペンデント紙は11月30日、今年6月30日までの1年間に、128の出版社が市場から消え(前年は81社)、E-Bookの普及がその要因であるという調査会社の説明を加えた。こうした飛躍した記事が常識的推論として大メディアに浸出するということは、「デジタルによる出版の衰退」がすでに迷信として定着しかかっていることを示すものだろう。

E-Bookは出版の霊柩車か救急車か

調査を発表したの英国の会計会社 Moore Stephensによれば、E-Book化が遅れた小規模出版社ほど売上額の急落に対応できなかったとしている。同社の見方では、E-Bookで常態化している値引販売に対応できなかったと見ているようだ。利益率の高い学術出版社は販売額の減少にも耐えている。MS社の破産・再建部門担当のデイヴィッド・エリオット氏によれば、もともと利益率の薄い印刷本の値崩れが大きく、E-Bookの売上も補うに至らなかった。2014年の英国市場は、E-Bookが11%増えて5億6,300万ポンド。印刷本は5%下落して27億ポンドだった。

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MSが指摘し、インデペンデント紙が引用している事実は、中小出版社(先週号で取り上げた「ふつうの出版社」の多数を占める)についてのことであり、おそらくはフィクション中心の商業出版社であろう。そして印刷本の値崩れとE-Bookのリリースの遅れが重なって破綻に至ったというのは理解可能だ。不可解なのは、それを(とくに新聞のほうで)E-Book市場の拡大と関連づけていることだ。因果関係は明らかにされていない。印刷本の価格は出版社から仕入れた書店が設定するもので、部数の少ない中小出版社の本はそう安くならない。その価格が下がるとすれば、売残りが生じて書店が仕入価格の引下げを要求する場合だ。おそらく、書店での(大手との)販売競争が激化し、中小出版社の本が弾き出されるという構図だろう。デジタルは倒産の犯人どころか、遅れてきたことで中小出版社を救うことが出来なかったと言えないこともない。

中小出版社には変化に備える経営はなかった

bankrutcy2中小出版社がデジタルへの対応が遅れる理由は、筆者の見るところ、デジタル移行をめぐる技術的・コスト的問題というよりも、もっぱら(1)印刷本と併せた柔軟な価格設定、(2)B2Cマーケティング体制の構築、(3)ブランディングを含めた出版戦略、というマネジメントの問題で、惰性のままに書店に最適化された対応を続けてきたためだと思われる。書店の数は(単純に採算的な問題から)減っているので、しだいに保守的な中小出版社の生存には適さない状態になっていたのだ。

デジタルはこうした問題を解決するために使えたはずだし、そうするべきだった。印刷会社は活字組版から写植、デジタル組版、電子製版に転換した時に大転換を経験している。出版社を取巻くすべてにデジタルが浸透し、最後に消費者の手にE-Readerが渡ってからすでに5年以上も経った。これでもE-Bookが犯人なのだろうか。出版だけに集中し、マネジメントを後回しにしても立派に事業を継続してきた旧き良き文化とそれを可能にした時代のせいだと考えている。

出版は、利益さえ望まず、無理をしなければ、とりたてて「経営」などを必要としない世界で、だからファミリー・ビジネスが多かった。これは世界的現象だったのだが、それも過去のものとなった。英国の出版界で起こっていることは、日本でもこの10年以上にわたって続いていることだ。印刷本市場が漸減を続ければ、採算が悪化し、多くの出版社が赤字化する段階で倒産が続出する。資金繰りが数年続くか10年以上か、あるいは明日にも終わりになるかは誰も考えたくないことだ。しかし、確実なことは、デジタルを放棄している出版社には、出資も融資もないだろうということだ。淘汰と吸収によって旧時代のよき伝統が失われないうちに、中小のためのエコシステムをつくらなければならない。(鎌田、12/01/2015)

参考記事

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  1. […] ●誰が出版社を潰すのか http://www.ebook2forum.com/members/2015/12/who-kills-the-publishers/ 英国の状況についてのレポート。日本に関していうと、取次システムが資金繰りの面倒を見てくれることから […]

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