調査も監査も、クライアントの期待を多少とも反映する傾向は免れない。ニールセン社の調査は、E-Book市場の「飽和」を語っている。この不用意な言葉は人々をミスリードするものだ。デジタル時代に人々がどのメディアにいくらかけるかは、様々な変数によって流動化している。E-Bookの急拡大と急停止は、そのことを物語っているに過ぎない。
ニールセン社消費行動調査の錯覚
ニールセン社 (Nielsen Books & Consumers)の消費者動向調査によれば、過去2年間で書籍購入に占めるE-Bookのシェアは3Q13の20%から2ポイント下落して18%となったことが明らかになった。ピークは1Q14の24%で、そこからは6ポイントもの下落になる(途中で一度も20%を超えなかった)。Publishers Weeklyのジム・ミロット氏の記事(01/01)は「E-Bookが飽和したことが一因」としているが、筆者なら「価格の大幅引上げが主因」とするところだ。
デジタルが最も強いのは1月で、クリスマス・シーズンに入手したデバイスに新しいコンテンツをダウンロードしたり、贈られた本を開いたりするためとされる。14年の12月と15年1月はともに19%で変わらず、ホリデー・シーズンが販売に影響しなかった。これを「飽和」の結果ととるか「値上げ」の結果ととるかは、やはりスタンスによって違うのだろう。しかし、このデータには、平均支出金額や購入点数の推移が示されておらず、分析には向いていない。そして当然ながら、モニタリング調査なので、サンプリングによって大きく影響を受けやすい。
E-Bookの減少のいま一つの要因として業界関係者が考えているのは、消費者にとっての選択肢の少なさだ。3Q15でもアマゾンのシェアは65%だったが、過去2年間60%を割ったことがなく、アップルとB&Nは二番手を争ってはいるものの、差が縮まる気配はない。アマゾンの寡占で市場が停滞している、という印象を受けているのかもしれないが、これも原因とするには弱い。消費者が欲しいのは本であってストアではない。ストアに不満があればベターなものを選択するだろう(Nookユーザーのように)。好調な業績を上げ、利益をすぐに投資に回すアマゾンへの不満が高まっているという情報もない。
ところで、第3のフォーマットとしての期待がかかるA-Bookは、2014年以降2-3%を往復している。こうした調査でシェアを比較するのは問題も多いが、5%を超えたら新しい段階に入ったと言えるだろう。また、本調査は定額制に関心を持っていないようだ。初期段階とはいえ、読書行動では重要な意味を持ち、Kindle UnlimitedではすでにB&Nなどのストアを凌ぐ市場を形成しているだけに、定額制をウォッチすることを期待したい。◆ (鎌田、01/07/2016)