「2016年予測」レビュー:(1)既成出版社から見た世界

2016年末年始の米国は「10大予測」などが出る季節だが、最近はめっきり減った印象だ。それだけ市場が読みにくくなっており、出版におけるデジタル、あるいは出版そのものをそもそもどう考えるかで見方が分かれているためと思われる。筆者は広い意味で「デジタル派」ではあるが、可能な限りバランスの取れた見方を心がけようと思う。

2つに分裂した世界

既存の出版を前提として考えると、昨年からの傾向があるべき秩序の回復と見えるし、筆者のようにデジタル革命を前提として考えると、出版社の外で起きている現実に目が行く。大手出版社がE-Bookの価格を大幅に引上げたことで、市場は旧商業出版とインディーズ出版に分割されてしまった。しかも、事実上アマゾンだけが両方の世界にいる。当分コンセンサスが生まれないこの状況で、最も注意しなければならないのは、整合性のとりにくい分裂した世界を一面的に見てしまうことだ。

Digital Book World (DBW)に寄稿したトム・チャーマーズ氏は、版権関係のサービスプラットフォームを提供する英国 IPR Licenseの社長(Managing Director)で、当然ながら出版社の側から見た英語圏出版の世界の展望が語られると思う。

1. 印刷本の販売が引続き盛り返す:一部の予想とは逆に、“印デジ逆転”は起きず、印刷本が死滅することもありそうにない。E-Bookの販売と印刷本の利益率をコントロールする出版社の戦略は奏功した。新世代の書店の登場もあり、2016年のは印刷本販売は15年に続き好調が期待できる。

2. 輸出市場への注目が増す:書店の新旧交代はあるものの、過去数年間がそうであったように、国内販売チャネルとしての能力は拡大しない可能性が強く、出版社は再び輸出に期待せざるを得ない。英語圏出版社にとって、海外市場はさらにアクセスが容易になっている。

3. アマゾンは「深く静かに」潜航:2014-15年には大手出版社との対立が一般に大きく報道されので、今年は表面的には静かにしている可能性が強い。しかしこれは計画が停滞することと同じではない。既存業界との表立った軋轢を避けながら計画は進展するということだ。アマゾンとそれがつくり出す市場の拡大には影響しない。

4. 大出版社による中堅の買収が継続:書店の再編が進む中で、営業力が弱い中堅出版社の経営は苦しく、大手による吸収が続くだろう。少数の独立系出版社の成功することはあるが、基本的に、大きく強い出版社と小さいが機敏な出版社が生き残ることになる。

5. ピアソンはペンギンの持株を放棄するか:世界最大の出版社であるピアソンは、近年事業の再構築を大胆に進めてきた(日経新聞に売却したFTもその一例)。その仕上げとしてペンギン・ランダムハウス(PRH)の持株を処分し、最終的に世界最大の教育・業務系出版社となる可能性が強い。

大手中心の体制は持続しない

future3ここまでが前半。チャーマーズ氏は、印刷本維持に集約される大手出版社の戦略が、E-Bookの価格引上げによって成功したと考えている。筆者がこれと反対の見方をしていることは、本誌で述べてきたとおりだ。高価格は出版社のデジタルマーケティングを機能不全にさせ、アマゾンへの依存は弱まらない一方、デジタルでの価格競争力を失い、シェアを低下させているからだ。彼らは「紙 vs. デジタル」しか見ていないのだが、この対抗関係は幻想でしかないし、前者を後者に従属させることを優先することが戦略としては自滅的であるとしか、筆者には見えない。「シェアを犠牲にして利益を優先」することにもならない。成長も利益もデジタルからもたらされるし、それどころか主要な出版手段としての印刷本の運命すらデジタルが握っていると筆者は考える。

  • B&Nの危機にみられるように、印刷本市場は確かに変化しているが、それ以上に重要なことは、それが成長・拡大しているわけではないことだ。大企業は成長しなければならない。
  • ビッグファイブ(B5)が当面デジタルの成長を放棄するとすれば、買収と海外に成長機会を求めるしかない。2と5はその通りだが、デジタル路線をひた走るピアソンが、FTを売り、ペンギンも売るのは、それが成長しないからだ。
  • 筆者の予想は、買収と海外に頼るB5が利益率を急速に低下させるというものだ。そもそもハーレクインのような買収対象は少なくなっており、赤字の老舗出版社しか買えないだろう。海外も甘くはない。非出版系や中国の資金も入ってくる。
  • アマゾンと大出版社の軋轢はなくなるが、印刷本の価格交渉や出版における競合はより厳しいものとなる。注目は、新刊ベストセラー印刷本の価格設定だ(これはアマゾンが自由にできる)。そしてB5の優位はシェアとともに低下する。
  • 筆者の今年の注目は、B5が「持続不可能」な戦略をいつ放棄するかということ。すでに5社でも多すぎるほど、書店市場は相対的に小さくなっている。そして「小さいが機敏な出版社」が大化けする可能性だ。

(鎌田、01/07/2016)

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