新興出版社の「スマート」な挑戦

waterhouse米国のWaterhouse Pressは、2014年にできた新しい会社だが、官能ベストセラー・シリーズ 'Calendar Girl' (Audrey Carlan)で業界の注目を浴びている。自主出版でデビューしたオードリー・カーランという作家のポテンシャルもさることながら、データ駆動のマーケティング・アプローチで生まれたヒットだからだ。

新しいマーケティングで成功した'Calendar Girl'

calendar-girlマイア・ソーンダースという高級娼婦をヒロインとする'Calendar Girl'は、アマゾンで「成人指定」され、3ドルで販売されている12冊のシリーズ小説で、その名の通り、月ごとに舞台を変え、客も変えてストーリーが展開する。作者のカーランは、本作を昨年自主出版し、これを読んだウォーターハウス社のマーケティング担当が可能性を認め、昨年8月に12作を契約したものだ。少数だが固定ファンの高い評価が決め手になった。ウォーターハウスの手で'Calendar Girl'シリーズはこれまで60万部を販売した。複数がランク上位にある。印刷本としての大きな成功を掴むには大手出版社に権利を譲渡することが現実的と思われるが、同社は小規模ながらイングラム社のサービスを利用して7万部を配本することにした。すでにB&Nなどから大口の注文を得ているという。

同社もメレディス・ワイルドという自主出版作家が創業した。昨年、アシェット系のGrand Central Publishing (GCP)に自作の版権を100万ドル台で売って話題になった人物だ。ウォーターハウスは小出版社だが、『フィフティ・シェイズ』の権利を大手出版社に売ったThe Writer's Coffee Shopの轍を踏まず、カーランとさらに27点を契約した。

セイバーメトリクスが自主出版の原石を宝石に変える

ウォーターハウスのデイヴィッド・グリシュマンCEOは、創業者であるワイルド氏の相談相手として、その作品の売上を最大化する方法を提案したことをきっかけにこのビジネスに入った。彼の方法は、MLBオークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMが採用して有名になったセイバーメトリクスという数学的アプローチにヒントを得たものらしい。

同社は売り込みは採らず、小出版社から出したものを含め、既刊本を持つ自主出版作家から一定の条件にマッチするものをオンラインで探し出している。カーランは、1年前には月間500ドル程度の売上実績しかなかったが、出版社の見立ては確かだった。ベストセラー本の企画においてセイバーメトリクスが有効であることは、一般的には言えるとしても、アマゾンや大手出版社も採用していると思われ、簡単なものではない。銀行出身のグリシュマンCEOは、独自の手法を開発・実践しているのだろう。彼のスマート・アプローチが記録を伸ばしていけば、自主出版の山の中からベストセラーの原石を発掘する彼の方法は業界を席巻するかもしれない。

デジタル・ファーストと自主出版は、少数の有名作家に独占されてきたベストセラー・ランキングを無名作家に開放した。出版におけるリスクを軽減し、キュレーション能力を持つウォーターハウスのような小出版社でも大手と伍して成功するようになれば、出版は魅力的な職場となるだろう。 (鎌田、02/09/2016)

参考記事

Scroll Up