「ベストセラー発見器」Inkittのクラウド支援出版

Inkitt_logoベルリンでスタートしたソーシャル・プラットフォーム Inkitt が開業1周年を迎えた。「クラウド編集」をセールスポイントとするこのサービスは、英語圏を中心に急速にユーザーを拡大して成長し、従業員は15名を数えるまでになった。日本ではまだ認知・普及が十分ではないクラウド出版へのアプローチについて考えてみたい。

クラウドとベストセラー・アルゴリズム

InkittInkittは、ファンフィクションのライティング/出版支援を軸に、データ駆動を応用した新しいタイプの出版事業を志向している。同社の創業は2012年。最初からコミュニティとして出発したカナダのWattpadは「Kindle前」「自主出版ブーム以前」の2006年なので、Inkittはビジネスモデルというものが明確に意識された時代に登場したことになる。同社は著者と編集にフォーカスして独自性を訴求した。ユーザーが拡大していることは、現時点でビジネスモデルが的中した結果と考えてもよいだろう。

ali-albazazInkittは2012年、ITエンジニアだったアリ・アルバザズCEOによって設立された。プライベート・ベータを経て、正式に立ち上げたのは2015年2月だから、かなり長い期間をかけて環境とマーケティングを練り上げていたと思われる。読者とともに明日のベストセラーを探し、あるいは育てて、著者のパートナーとして出版ビジネスに食い込みたいと考えているためだ。同社のサイトにはAIによる読書パターン解析アルゴリズムが導入されており、成功の確率が高いものは出版社から印刷本として出版する。コンセプトの一つは、オンライン出版と印刷出版の間の架け橋になるということだ。ジャンルは、ファンタジー、SF、ホラーなど。すでに2015年に新人デビューを成功させたとしている。

青天の霹靂を呼び込み、導く!?

ベストセラーは「青天の霹靂」と考えられており、「有名作家」あるいは「有名人」から作品を得るのが大出版社の常套手段だ。だからコストが高く、マンネリに陥りやすい。出版関係者は「成功しない」ものだけは確実に見分けられることを確信している。しかし、近年の自主出版のデジタルファーストでの成功は、その自信を揺るがせている。

inkitt-headline伝統出版社は、無名作家によるベストセラー作品をほとんど発見できていない。『ハリー・ポッター』は出版社から12回も突き返され、『トワイライト』は14回、S・キングの『キャリー』は30もの出版社から断りを喰った。出版社は一般の読者とは違う鑑識眼を持っており、そのために何度でも見逃してしまうのだ。Inkittの創業者たちが注目したのは、E・L・ジェームズの『フィフティ・シェイズ』で、彼女が『トワイライト』のファンフィクション・サイトに投稿し、コミュニティのフィードバック(ピア・レビュー)を得て、何度も書き直した後、オーストラリアの小出版社の目に留まり、E-Bookで最初の成功を得て後、最終的にランダムハウスによる大ベストセラーに結びつけたことだ。彼らは著者が、未完成原稿をコミュニティのレビューに任せたことで無意識にクラウド・エディティングを行ったと解釈した。

世間は<ファンフィク→E-Book→ベストセラー>と短絡したのだが、Inkittは編集とリライトのほうに注目した。そして過去の成功例から「読者」の読み方をパターン化し、「ベストセラー発見器」と「ライティング・ガイド」を開発し、精度を高めていった。小説の物語構造、文体などではコンピュータ解析が、かなり以前から行われており、こうした蓄積とWebアナリティクスを融合させることで、「ベストセラー発見器」に結びつけた発想はユニークなものだ。ファンフィクは枠組が共有されているので、フィードバックを最も得やすいテーマ/環境といえる。今後アルゴリズムが進化すればブランドとしての知名度も上がるだろう。 (鎌田、02/23/2016)

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