大手出版社はデジタル戦線で後退 (3)紙と音

EAR先週号では、AERレポートの前半(E-Book)を要約・コメント付で紹介した。後半は印刷本とA-Bookに踏み込んだもので、それによって得られる情報はさらに複合的なものになっている。自主出版の拡大が意味することは、ほとんどの関係者の予想を超えていた。この5年間、大手出版社が結果的に見当違いをやってきたことが数字で示されたことに驚いている。

アマゾン・ランキングと販売実数および金額の関係を、かなりの確度で推定することに成功したAE (The Data Guy)は今回、同じアルゴリズムを使って印刷本およびオーディオブック(A-Book)市場を解明することに着手した。2月のレポートにはその最初のアウトプットが掲載されている。AERの手法は、システム工学で使われるシステム同定問題(System Identification)を使ったリヴァース・エンジニアリングだ。計測データ(ランキングと著者への販売日報)をもとに換算式を得て市場規模と内訳を逆算する。個々のタイトルの販売は、光の明滅のように時間の推移とともに変化する複雑な現象なので、ここではアマゾンのランキングエンジンをブラックボックスとして扱っている。もちろん、統計専門家の傘下によって実現したものだが、精度はかなり高いと思われる。

E-Bookの3分の2のシェアを持つ言われるアマゾンのシェアは、印刷本で市場の4分の1、A-Bookは8割あまりと考えられている(iTunesもAudibleを利用)。そして、CreateSpaceを通じて日報で提供しているPoDの数字も利用可能だ。AudibleのほうはACXの日報が利用できる。今回のレポートで捕捉したのは、Kindleの上位20万点、Audibleの2.5万点、ハードカバー7.5万点、ペーパーバック15.9万点、マスマーケット本13,834点、ボードブック1.823点である。

PoD恐るべし:アマゾン印刷本販売部数の1割に成長

印刷本ベストセラー上位15万点は、同日の売上の43%を占めている。ここではやはり商業出版社が強く。タイトル点数で4分の3ほどを占める、ビッグ・ファイブ(B5)は22%と少ないが、販売店部数では49%、金額で47%、中小出版社は、点数で51%、部数で40%、金額で43%だ。B5はタイトルで中小の半分以下だが、効率よく稼いでいる。中小出版社はなかなかに健闘していると言えるだろう。自主出版系は、点数で4分の1、販売で10%前後。しかし、著者の実収におけるシェアは、出版社系の83%に対して自主出版系は17%で、効率はかなりよい。

print-titlecount-20160110

print-units-20160110

print-gross-sales-20160110

print-author-earnings-20160110

著者にとって、印刷本は大きなチャレンジである。印刷・製本、在庫管理、書店流通という、デジタルでは(少なくともリスクとしては)意識しないで済むコスト要因のコントロールがあり、まとまった数を書店に卸販売したり、棚の空間を確保する必要があるからだ。しかし印刷本のメリットは改めて言うまでもない。画面で本を読まない人はなお多く、読者との関係を長続きさせるためにも本の物理的形態は意味がある。E-Bookを含めた出版プロジェクトの成功要因の一つにも挙げられるほどだ(その逆もあるが)。幸いにして、オンラインの自主出版者にはPoDという手段が与えられており、書店は難しくても、宅配に載せることが出来る。

印刷・配送を顧客の負担にして印刷本を出版することが可能になっているが、これまでは規模の推定が困難だった。米国の印刷本市場の約4分の1、オンラインの約2分の1を占めるアマゾンでは、大小出版社から自主出版のPoD本までが網羅されており、ここでの自主出版本の販売状況を把握できれば、自主出版にとって印刷本がビジネスとして有効かどうかが判断できる。AER-1602はその正解にかなり前進した。

印刷本:点数=4分の1、部数=10%、実収=17%
E-Book:点数=2分の1、部数=4分の1、実収=44%

販売点数は著者出版者の「意欲」、販売部数は「プレゼンス」、実収金額は「経済規模」を示すものであるとすると、E-Bookはビジネスモデルとして成熟していると評価できる。デジタルを100とすると、意欲で50、プレゼンスで40、経済規模で39%、確実に成長している。PoDも読者のニーズを捉えられることを示している。トレンドとしてはE-Bookと同等あるいはそれ以上の可能性がある。印刷本出版への著者の動機は上昇し、アマゾンのロングテイルはマス・マーケティングとの差をさらに拡大していくだろう。今後のレポートの数字が注目される。

A-Bookでもインディーズが陣地を確保

ダウンロード・オーディオブック(A-Book)は、米国の出版産業の中で唯一の急成長分野で、まだ限界を見せていない。そしてここでもインディーズが進出している。今回のAERの調査では、1月のAudibleの1日の販売部数は11万9,000点で、額にして210万ドル。著者の実収となるのは20万4,000ドルと推定されている。

audio-titlecount-20160110

audio-units-20160110

audio-gross-sales-20160110

audio-author-earnings-20160110

ランキング上位25,000点を対象に、チャネル別のシェアを比較してみると、発売点数では、中小出版社が52%、B5が22%で、在来出版社の合計は74%。アマゾン(Audible)が11%、自主出版系は11%である。販売部数では、それぞれ、44%+34%、11%、11%、販売金額は、同じく、43%+36%、10%、11%、著者収入では、35%+30%、10%、25%。ただし、「中小出版社」として分類されているものの多くは、B5や自主出版からA-Book化権を取得して制作している Brilliance、Blackstone、TantorといったA-Book専門出版社である。同様に、グリーンの楔はAudible Studiosが制作・出版したものだが、B5から自主出版コンテンツをオリジナルとしている。著者出版者(水色)の半分以上は『ハリー・ポッター』シリーズで、大富豪作家J.K.ローリング氏所有のPottermoreが「自主出版」となっていることに留意する必要がある。 (鎌田、02/16/2016)

Print Friendly, PDF & Email
Send to Kindle

Share