アマゾン初の「書店」は、昨年暮シアトルに開店して以来大きな注目の的になってきたが、当初の恐怖や興奮はしだいに沈静化しつつあるようだ。そうした中で、アマゾンのポール・マイスナー副社長(政策担当)は3月8日に英国政府の聴聞会に出席して、この店舗が顧客の体験を知ることを目的としていると述べた。
オンラインの限界を超えるもの
この店舗が何であるかはまだ分からない。しかし、年内に400店舗を全米にオープンするなどという風説を大手経済紙が取上げたりしたものだから、シアトルの「1号店」は集中的な観察の対象になってきた。少なくとも最初から売上を上げるつもりで開業したのではなさそうだが、たんなるショールームとは違う。第2号店をカリフォルニア州サンディエゴに開店すると発表してもいるので、たんなる実験などではない。確かなことは、ユーザー体験の向上を目指しており、オンラインと連携していることだが、具体的にどのような連携がメニューにあるのかは窺い知れない。
「そこで何が起きて、お客様に気に入っていただけるかどうかを見たいと思っています。」「実書店を開業したことで驚かれた方もいますが、大それた計画(質問は「世界征服」)の一環などではなく、お客様へのサービス向上を願う自然な気持ちから生まれたものです。」とマイスナー副社長は述べている。そつない答だが、事実である可能性のほうが強いと思う。小売店の経営の難しさ、簡単にイノベーションが通用する世界ではないことは承知しているはずだからだ。
むしろ感心するのは、早くも「幽霊の正体見たり」とばかりに、有力紙が「アナクロ」だとか「失敗」だとか書き立てる軽薄さだ。これはアマゾンの店舗進出が街の風景まで変えてしまうことを本気で心配していたことを示している。アマゾンは(消費者と同様に)ヴァーチャルとリアルが相互補完的であるべきものと考えている。最適解はまだないし、それがどういう形となるかも分かっていない。ただ、店舗は直営である必要はまったくないし、「アマゾン・コンビニ」チェーンでもないだろう。それどころか独立経営のアフィリエイトのほうがよいのではないか。
しかし、これは商業メディアが想像したいことではない。アマゾンが小規模店の味方になる、というのではメディアが育ててきた「悪役」イメージに反するからだ。本誌は、アマゾンが中小規模の小売店との連携を、ソリューションとして開発しようとしていると考える。「顔のない」アルゴリズムの限界は、人間の顔をした(つまり「張り付いた笑顔」ではない)小売店でしか超えられないからだ。
マイスナー副社長は、小売店を衰退させたのは(オンライン以前の)大規模店舗(big box retailers)であり、アマゾンは小規模店舗を助けることを続けてきた、という認識を語っている。つまりアマゾンは中小店舗の味方であるということだ。これもメディアは認めないだろうが、意外と本気である可能性をいまから考えておいた方がいいと思う。大規模店が困ってから中小の味方を始めても遅い。◆ (鎌田、03/15/2016)
参考記事
- Amazon policy chief says physical bookshops are 'natural growth’, By Lisa Campbell, The Bookseller, 03/11/2016
- Amazon in the Physical World: Not Bookstores — Media Showcasesn, By Edward Renehan, The Digital Reader, 03/11/2016
- Lee Child on Amazon’s real-life bookshops – and why we should be worried, The Guardian, 03/12/2016