価格戦争の意外な結末:勝者の後悔?

win_lose2米国の出版界はE-Bookをめぐって二分している。現状認識から情報源まで共有していないのだから深刻だが、その中で両派から等しく信頼されるマイク・シャツキン氏が最近のコラムで、価格問題に関するこれまでの見方を撤回することを表明した。いわゆるエージェンシー価格が出版社にとって最悪である、ということを認めたのだ。

「あの日に帰りたい」

Mike-Shatzkin-250x214シャツキン氏は、二代にわたるニューヨークの伝統的出版人で、誠実な姿勢と長年の経験に裏づけられた独自の視点で尊敬を受けている。本誌も時々引用させていただくことがあるが、伝統的価値を重視する保守派で、価格問題でも基本的に大手出版社の立場を支持してきた。その彼が、ビッグファイブ(B5)に近い筋から話を聞いて、これまでの見方を変更せざるを得なくなったという。「この7年間で、一つの記事の主張をまるごと撤回するのは初めてである」と述べ、出版社がアマゾンにエージェンシー価格制を強い、それによって印刷本の売上を増やしたという2点が大いに疑わしくなったことを認めた。

彼に訂正を強いたのは、大手出版社に近い関係者からのエージェンシー価格制への怨嗟の声だ。「叶うことなら、すべてを6年前に戻したい」という有力な著者エージェントは、出版社が求めたはずの契約が悪夢となったことを伝えている。『6年前」というのは、2010年3月の「エージェンシー価格の導入」による「第一次価格戦争」より前を意味する。

win_loseこの年から司法介入による2年あまりの中断をはさんで、2014-15年の新契約による委託制の復活までの6年間のアマゾンとの死闘がまったく無意味であったどころか、アマゾンをさらに優位に立たせる結果となった。最初はアマゾンに呑ませた委託制が、現在では(価格の如何を問わず)アマゾンに30%の手数料を保証した頸木のように重くのしかかっている。関係者によれば、B5のうち4社はエージェンシー価格が大失敗であったと考えている。E-Bookの売上の4分の1が失われ、紙に置換えられたが、それもアマゾンのシェアを増やしただけだった。2010年は戦略だったが、2015年には降伏を意味した、と言った人もいる。

アマゾンは知っていてハメたのか

bigfive2エージェンシー価格への回帰をアマゾンは密かに期待していなかったはずはなく、出版社は罠にかかったのだという声も出始めているようだが、いずれにせよ世界の大出版社のエリートたちは、そのくらい見事にハマってしまったのだ。そして昨年からNYタイムズなどのメディアが、断片的なデータをつなぎ合わせて広げていた、E-Bookの凋落、印刷本の復活・書店の復活という呪文も、まったくのミスリードであったことも明らかになった。出版社の勝利が、より多くの利益を「敗者」にもたらしたことを、いずれ彼らは認めることになるだろうが、それでもこの敗者の狡猾さを非難することを止めないだろう。アマゾンは7年前の体制への復帰を許さなかったのだと。

客観的に見て、アマゾンが結果を知り得た可能性は高い。エージェンシー価格制は、アマゾンのコストなしにKDPの推奨価格ゾーン(3~10ドル)を大出版社にも受け容れさせるための檻にもなること、アマゾンは出版社をそこに誘導してきたことを、本誌も含めたデジタル派は予想していたが、B5は聴く耳を持たなかったのだ。価格戦争の意外な結末については、別途検討する予定だが、この5年戦争によって、自主出版が強力なビジネスモデルとして確立され、B5の覇権が失墜したことは、デジタル転換がまだ始まったばかりの日本や大陸欧州にも大きな意味を持つだろう。そして、身から出た錆とはいえ、B5にとって一方的な損失を意味する契約をいつまで続けるかということが問題になってきた。ボールはアマゾンの側にあり、彼らは好きなようにすることができる。 (鎌田、03/08/2016)

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