社会基盤から見たデジタル出版革命

Cross-pollination出版技術コンサルタントのブライアン・オリアリ―氏がPublishers Weekly (04/15)で、「デジタル出版革命はただ加速するのみ」という記事を書いて、なお燻っているE-Book停滞(成長)論争に新しい視点から論じ、表題のような結論を述べている。もっぱら商業出版の世界の中だけで論じられてきた問題に対する、インフラからの視点は新鮮だ。

変化に抵抗する商業出版は例外

「過去2年間、E-Book販売の伸びは減速し、落ち込んだところもある。出版社はこの変化を歓呼の声で迎え、デジタル革命は終わったと宣言する者まで現れた。CIDM (情報開発管理センター)が実施した最近の調査は、いくつかの分野で、革命が終わるどころか、むしろ確実に広がり始めていることを示している。」

CIDM_Block_Logo_Small日本でも『本の未来』などで知られるオリアリ―氏 (Magellan Media Consulting)は、タイム社などでの豊富な実務経験を持ち、メディア/出版技術というマクロな視点から本を語ることが出来る希少な人物だ。今回彼が材料としたのは、産業コミュニケーションの推進団体 CIDMが、主要産業分野の350社(出版社は1社のみ)の情報ニーズの現状について調査したレポートだ。

CIDMは、DITAの母(あるいは女王)ジョアン・ハッコス博士の主導する産業コミュニケーションの推進団体で、当然のことながら、商業出版よりもB2B、企業出版、プロダクトよりもプロダクションや機能、コンテンツより情報、出版者よりユーザー/読者の側から出版を見ている。蛇足ながら、出版はコミュニケーションにおいて意味を持つものなので、出版から見える世界は局限化されており、とても革命のようなマクロなことを考えるには十分でない。

産業ユーザーの間で進むデジタルの“交差受粉”

mobile documentsさて、結果だが、対象企業の半数は、顧客がコンテンツと提供方法に関して新しい形態を要求し始めていると感じている。また4分の3は、今後3年間はHTMLフォーマットの活用が上昇するものと考えている。提供媒体では、4分の1ほどは書籍を発行しているが、他の形態が増加しており、マニュアルやトレーニング教材などはデジタルに移行しつつあり、さらにーザー支援機能を埋め込んだドキュメントや、知識ベース、ストリーミング映像、モバイル・アプリなどに多様化しつつある。

今回の調査のスポンサーとなったData Conversion Laboratory (DCL)は、各種出版者のためのコンテンツの変換支援サービスを提供する会社だが、同社のマーク・グロスCEOは、「商業出版社の要求は単純なもので、変化を促す刺激にも乏しいが、消費者のニーズが変化し、フォーマットや機能も多様化してくると、商業出版社も影響を受ける可能性は高い。「様々なユーザーの間で交差受粉が生まれていることは、テクノロジーとフォーマットが他の領域に拡散していることを意味している。

pdf_vs_html1コンテンツの制作編集ツールの変化は起きている。回答企業はなお商業出版で一般的なツール(マイクロソフトWord、アドビInDesign、FrameMaker)を日常的に使っているが、欲しいツールのトップにはXMLエディタが来ている。おそらく、より強力なエディタが登場するだろう、とグロス氏は指摘する。これはHTMLの普及とも並行している。重要な変化は、最も普及しているフォーマットであるPDFからの移行だ。対象企業の90%はPDFドキュメントを出版しているが、3年後にもそれが変わらないと考えるのは半数をわずかに超えた程度だった。紙と同じく静的なページを表現するPDFは、紙からの移行の第一歩としては最適なものだが、モバイルデバイス(とくにスマートフォン)には向かない。

デジタル出版革命の意味

消費者のニーズ、フォーマットの変化、モバイルデバイスの普及は、デジタル革命が終わりとはほど遠いところにいることを示している、とオリアリ―氏は言う。商業出版の中ではSTM(科学技術系)において自動化とユーザー主導のコンテンツ配信が拡大している。ペンギン・ランダムハウスもノン・フィクションのPelicanでHTMLコンテンツの開発を進めている。

伝統的な出版(編集、制作、流通)は、印刷物の制作と流通の上に成立していた。出版社はコンテンツを独特の仕方で独立した商品とすることで他と区別されるが、当然ながら、インフラは共通している。いまインフラがデジタルに移行し、次に印刷物のためのデジタルから、コンテンツとしてのデジタルに移行する時に、商業出版が全体として紙に留まることはあり得ない。 (鎌田、04/21/2016)

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