声のインタフェースの時代:(2)耳寄りの出版

Apple-Siri-ProactiveAexaは最初の成功した音声エージェントとなった。これはOSのように、21世紀のネットワーク・サービスの基盤環境の一つであり、アップルやGoogle、マイクロソフトを含む巨人たちが放置するわけはなく、すぐに混戦となるだろう。さしあたってわれわれに重要なことは、これが出版に何をもたらすかということだろう。

耳で聴き、心で読む新しい読書

audio_pub音声エージェントは、商品化が難しい技術だ。単独では商品にならず、無料で配布するわけにもいかない。汎用のデバイスの中では容易に埋もれてしまうが、どんな用途であれ日常的に親しんでもらわないと、ホーム・オートメーションにまで広がらない。前述したように、アマゾンにとってAlexaは第一にショッピングのツールであり、Fire Flyが眼であるとすれば耳となるはずのものだった。それによってiPhone-Siriに対する独自性を意図したのだろうが、そちらで転んで、Echoで手掛かりを掴んだ。これは音声エージェント機能を可能な限り広げる役割を担っている。アマゾンの場合、入口はコンテンツで、同社はAudibleとラジオ放送、通話機能を用意した。主として家庭で日常的に声のインタフェースに親しむには非常に有効なものだと思われる。Echoをロールモデルとして、DotやTribyのようなバリエーションも、それぞれ一定の市場を確保するだろう。

他のITプラットフォーム・ベンダーがコンテンツ主導のアマゾンに倣う可能性はあまり高くない。アップル、Google、マイクロソフト、アドビはコンテンツ販売にコミットしているが、E-Bookでみるように、これまでのところあまり熱心ではない。しかし、やらない可能性もそう大きくない。結果としてアマゾンに対抗するプラットフォーム・サービスはつねに存在することになり、アマゾンに依存しないコンテンツ・サービス環境は安定して存在することになるだろう。

新しい「声のインタフェース」が出版にもたらすものは、さしあたり以下が考えられる。

  • UIの拡大(マウス→タッチ→声)
  • コンテンツとの接点の拡大:聴く読書(手ぶら読書)
  • 遍在するオーディオデバイスとその連携
  • 声に囲まれた生活、ラジオの復活

radio音声サービスが音声コンテンツをナビゲートし、活字コンテンツもTTSで聴く環境がデバイスを越えて普及するというのは、もちろん出版の歴史上画期的なことだ。これまで読書はほぼつねに目と手指の連携を必要とした。眼への負担はかなり大きく、活字が好かれない原因にもなってきた。漢字が近視の強い誘引であるかどうかはともかく、漢字の読解能力が読書市場において持つ意味は軽くない。聴く読書は、文字や図版を追う必要の少ないコンテンツに関しては最もイマーシブな体験を提供する。可読性(readability)から言うならば、眼に依存しない読書が可能となれば、相当なプラス効果が期待できる。出版社としては、オーディオブックとTTSへの投資によって得られることは大きいだろう。音声読書環境は、読書時間を少なくとも1割は増やす可能性があると思われる。

聴く読書は、おそらく声のインタフェースに慣れるための、あるいはそれを洗練させるための非常によい入り口を提供するだろう。音声エージェントが遍在化することで、音声体験の環境は大きく変わるだろう。それはスクリーン・ディスプレイが高精細化して活字やグラフィックを印刷に近い品質で表示することで生まれた市場機会と似ている。 (鎌田、05/26/2016)

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