著者はなぜ出版社を訴えたのか

Simon_logo25月19日、サイモン&シュスター社(S&S)を相手取って、E-Book版権料の支払を求める集団訴訟が著者の一人 (Sheldon Blau, MD)によってニューヨーク州で提起された(pdf)。これは「ライセンス(料率50%)に対し、販売に対する料率(25%)が定例的、慣行的に適用されていたというもので、過去6年あまりにわたる差額の支払を求めている。

「E-Book版権料25%は不当」

ご存知のように、出版社はE-Bookのビジネスにおいて、販売(所有権の移転)ではなく、ライセンスの提供(利用許諾)であるという立場をとっている。原告の申し立てによれば、S&Sはこのことを契約に明記せず、販売と同じ料率を適用していたということになる。消費者にはライセンス、著作権者には販売という「二枚舌」を使い分けてきた、ということだろう。

同様の訴訟は、過去に音楽業界のデジタル・ダウンロードについてアーチスト (Eminem)がレーベルを提訴したことがあり、その際は原告が勝訴している (F.B.T. Productions v. Aftermath Records, 2010)/(「DLコンテンツは販売か貸与か?」本誌 2010/10/5号)。今回のケース (Blau ns. Simon & Schuster)がそれを下敷きにしていることは明らかだが、ことはそう単純ではなく、訴訟の帰趨は明らかではない。

40563-v1-197xS&Sの広報は、同社がブラウ医師の1997年の著書の版権を翌年に別の出版社に売却して、すでに同書の「出版社」ではなく、またE-Book版を出版したこともないと主張している。これでは法廷の判断がE-Book一般の著作権問題にはまったく及ばず、契約の有効性で終わる可能性も十分にある。アマゾンその他の書店のリストでは、同書はWiley社から刊行されているが、Kindle版の版権表示欄にはS&Sも明記されているという。問題は2点。

  • なぜ原告(ブラウ医師)はS&Sを相手に提訴したのか
  • なぜ原告はクラスアクションを選択したのか

原告は一定の勝算を持っており、S&S→Wileyの版権譲渡の際の契約上の不備を突いている可能性もある。そしてE-Bookの版権料増額は著者団体の要求でもある。これまで明らかになった情報だけでは判断できないが、まだ奥がある可能性はあると考えられる。

一般的に、紙とデジタルで版権料の違いが問題となるのは、

  • 小売販売とライセンス
  • 刷部数(紙)と実売部数(デジタル)
  • 販売価格と出版社実収

class_action2という基準の設定があり、また販売期間と再版権などが絡むためだ。一般的に、E-Bookでは制作・販売における出版社の負担が軽く、事実上印刷本の副産物である場合が多い。つまり、数が売れれば出版社の取り分と利益率は相対的に大きくなり、デジタルの版権料引上げを要求する著者との版権交渉は難航する。前提が違い過ぎるためだ。「儲けすぎ」の批判を怖れた出版社は、書店との関係もあり、これまで不自然を承知でE-Bookの価格を上げることで市場を凍結し、版権料問題の解決から遠ざかろうとしてきたのだが、そろそろ限界にきつつある。法廷でそうした問題に光が当てられれば、著者と出版社の関係について新しい社会的合意が生まれる可能性もある。現状では著者がインディーズを選択することで出版ビジネスを衰退させる可能性が大きい。 (鎌田、05/24/2016)

参考記事

 

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