CNET (6/2)が伝えるところでは、アマゾンは「50ドルのKindle Fireタブレットが、今年第1四半期 (1Q16)の売上台数でトップに立った」と宣言した。具体的な数字はなく、またiPadやAndroidの競合機種も明確ではないが、社内外の数字を勘案したものとされる。とりあえず、Fireの激安モデルが四半期ベースで首位を占めたことは確からしい。これは事件だ。
50ドルFireの猛威:ガジェットからコモディティへ
IDGの最近のブランド別シェアで、アマゾンがサムスンと並ぶまでになったことからみて、大企業の廉価製品がトップになったこと自体は大きな驚きではないが、かといって軽視できることでもない。それは以下の理由による。
- iPad登場以来6年で、タブレットはローエンド機がシェアをとる市場になった。
- アマゾンの50ドル機は、ハードウェアの進化を単純に価格に反映させた結果である。
- アマゾンのメディア販売に大きな推進力となる(クラウド戦略が本格始動)。
- スマートフォンでは躓いたが、タブレットだけでFire版Androidのシェアを確保した。
- Alexaを搭載した激安Fireが、音声コントロール市場も重要な存在となる。
アマゾンは初代Kindleを400ドルでデビューさせた後、数年で50ドル近いモデルをリリースさせ、E-Book市場を席巻した。広告モデルを無償配布するのではないかとも言われたが、それはしなかった。コンテンツ消費には結びつかないからだ。50ドルKindleは、Google Playを載せてAndroidタブレットとしても使えるのだが、そういうユーザーは、アマゾン重力圏ではあまり多くない。この「半分オープン」なWeb/Android環境を、アマゾンは効果的に使っている。
アップルは21世紀のビジネスモデルを築けるか
6年間にわたって築き上げられてきたiPadがMacの運命をたどると決まったわけではないが、MacをPCが、iPhoneをAndroidが数で圧倒した歴史が、タブレットでも繰り返される可能性はかなり高くなったと言えよう。ProやMiniのようなものでお茶を濁せる時代ではない。やはりジョブズの最大の遺産は、ティム・クックCEOの手には余ったように思われる。この3年、iPadに関して前向きのメッセージは何もなかった。
タブレットの用途が在来メディアの大量消費を中心としたものであるならば、ローエンド機がニーズの大半に対応出来る。50ドルKindle Fireは、iPad miniの10分の1割あまりだが、それなりの価値を提供し、多くのユーザーに不足感を感じさせない。アマゾンの保証がある限り、売れて当然だ。逆に Fire Phoneは、SIMフリーでなかったこともあり、「意欲的な機能と5割の価格」でまったく売れなかった。
50ドルは、まともな部品とプロセスで組立てている限り、ほぼ原価に近い価格で、安くて安心できるデバイスを求める消費者と、プライム会員を拡大し、メディア・プラットフォームを1台でも多く売りたいアマゾンの意図が釣り合う最適水準ということになる。これでKindle Fireのベースを拡大することが、アマゾンにとってはベストで、アップルにとっては悪夢となるだろう。さしあたって、以下のことが理由になる。
- アップルはデバイスで収益を上げるビジネスモデルを基本にしている。
- タブレット市場の縮小は、iPad/iOS事業の利益率を悪化させる。
- エコシステムとしての iOSへの期待は低下する。
アップルはまだMacの問題を清算していなかった。デバイス+OSによる古典的ビジネスモデルをWeb時代にアレンジはしたが、メディア環境を提供し、コンテンツから利益を得るクラウド時代のビジネスモデルを機能させて両輪とすることにはまだ成功していないのだ。いやそもそもそうした方向を目ざしてはこなかったと思われる。ジョブズという、ビジネスモデルを超えた「ユーザー体験」をもたらす稀有な人物が、それを不要にしてきたのだろう。◆ (鎌田、06/06/2016)