‘Watchmaker Suite’ 30年ぶりの復活

the-blind-watchmaker世界的な進化生物学者・動物行動学者で稀有のサイエンス・ライターでもあるリチャード・ドーキンスの30年前の名著の再刊に際して、ペンギン社は著者が30年前に書いた生物進化のエミュレーション・プログラムをWebで公開した。進化のメカニズムを説明する画期的な著作という評価を得た原著の理解を高めるものだが、それだけではない。

ペンギンが進化エミュレーション・プログラムを公開

Dawkins-covers科学、ノン・フィクションで優れた啓蒙書を数多く擁するペンギン社は、E-Bookの可能性を地道に研究していることで知られるが、同社は閉鎖的なアプリよりも開放的なWebを重視している。つまり、Webとの併用によって印刷本の限界(動画、リンクなど)を超えるという折衷的アプローチだが、今回の試みもその一例と言えるだろう。

今回のプロジェクトは、ドーキンスの 'The Blind Watchmaker, 1986'(盲目の時計職人)と 'Climbing Mount Improbable' (Viking, 1996)、'Unweaving the Rainbow' (Allen Lane, 1998)の再刊に際して、著者が30年前に作成したプログラム (Watchmaker Suite)をクラウド上でエミュレートして提供している。進化の重要な概念である、Arthromorph、Biomorph、Snailmakerを理解するには、この対話的なプログラムの助けを借りないと理解することは困難だろう。筆者も『利己的な遺伝子』の比喩の魅力に誘われてドーキンス理論を理解しようとしたが、あっさりと放棄した記憶がある。

original-watchmaker元のコードは当時のMac用のPascal言語で書かれており、現在はそのままでは動作しない。これは2014年に、アラン・キャノン氏によってオリジナルのレイアウトとコードに忠実に、Javaで複製され、オープンソースとしてWindowsデスクトップで利用可能になった(→OS版リンク)。すでに教育用では使われているのだが、Webで実行可能になって初めて一般人が目にするものだろう。

印刷本で利用できるコミュニケーション手段は、文字、数式と表、図版くらいで、それを構造化したものはレイアウトが難しくなる。静止画の組合せ、アニメーション、動画は説明を助けるが、シミュレーションはプログラムでしか出来ない。プログラムは実行環境で制約される。ドーキンス博士のプログラムは30年近く眠っていた。Webとクラウドはすべての問題を解決するが、まだビジネス化が出来ない。ともかく、答はWebにあり、印刷本に頼らねばならない現状は過渡的なものだ、ということをぜひ出版・教育関係者に理解してほしいと思う。 (鎌田、06/16/2016)

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