Pronoun (旧Vook)はなぜマクミラン傘下に入ったか

Vook_Pronoun出版大手5社の一角、マクミラン出版がE-Book出版サービスのPronounを買収することが発表された。2009年の創業以来、紆余曲折を経たスタートアップ企業のゴールは、大手出版社の傘下だったことになる。単独ではビジネスモデルが成立たなかった結果だが、マクミランはなぜPronounを買ったのだろうか。

起業から7年、転身から起死回生の買収と被買収

macmillanPronounは、2009年にVookとしてニューヨークに創業した。名前の源はVideo+Bookで、動画を含む拡張E-Bookコンテンツの製作・出版を行うことを意図していた。ターゲットはiOSのアプリ市場。アップルのスピンオフだったInklingと似ているが、タブレット登場前後は、20世紀末の「マルチメディア・ブーム」のように、紙の電子化ではない“ボーンデジタル”、あるいはハイブリッドのコンテンツが期待されていた。それなりのタイトルが生まれたにもかかわらず、いまだに目だった普及をしていないのは、考えてみるべきテーマだが、筆者はダイナミックでオープンなインターネット環境と、静的・孤立的な冊子体の「本」の呪縛、あるいは出版ビジネスモデルの問題という構図で捉えている。これについては別に検討したい。

Booklr2Vookは出版からサービスへと大きく路線を変更して、出版データ/アナリティクスのBooklrを買収し、同社のジョシュ・ブロディがCEOに昇格、社名も昨年1月にPronounと変更した。Booklrを買収したのは、制作支援からマーケティング支援へのサービス需要の変化に対応したものだが、このことで減衰を続けていたVookの価値を一気に回復させることになった。企業の価値は能力のポートフォリオで決まる。Vookのオーナーたちは投資を救ったことになる。

マクミランはデータ駆動を強化

data-drivenアンドリュー・ロームバーグ氏の記事(DBW, 06/01)によると、マクミランが買ったのは、明らかにVookではなく、Booklrのほうだ。マクミランのアンドリュー・ウエバーCOOのコメントはそのことを裏づけている。「私たちはデータと解析手法、技術力に強い印象を受けた。そしてそれが独立系の著者たちだけでなく、われわれ出版社や著者たちにも価値があることを確信した。」

Booklrがフォローする主なデータは、以下のようなものだ。

  • 価格/販売:複数の小売チャネルにまたがる販売ランキング、価格追跡、価格変化の販売への影響
  • 顧客行動:タイトル別の購入パターン、数量(絶対値と相対値)と変動要因の相関(表紙、フォーマット、説明文、広告、価格等)
  • 小売のモニタリング:ストア別の販売パフォーマンス、同一書名が出現した際の警告等。

M&A3大手出版社は「データ駆動」の重要性を認識し始めており、自社に解析能力があったとしても、別のパースペクティブからのデータの集積には価値がある。グローバルなオペレーションではとくに貴重だ。それにトップのペンギン・ランダムハウスと比べると、マクミランの解析能力は大いに見劣りすると見られていた。Booklrの20名あまりのチームは、データ駆動の大きな環境で生きるはずだ。 (鎌田、06/03/2016)

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