デジタルから振り落とされた大出版社

market_share falling2米国大手出版社のE-Book売上減少が止まらない。シェアは危険な状態にあり、デジタルによる増収・増益とともに「デジタル比率」を誇示していた2013年までの状況が嘘のように、この市場の「需要の減退」を語り、そしてデジタル比率の数字を隠し始めた。何かが壊れはじめている兆候だ。※無料/公開記事です.

出版最大手の決算から「デジタル」が消えた

今年前半の上場企業決算が続いているが、出版社はいずれも冴えないものとなった。アシェット社(HBG)は、全体で6.6%の減収。180%の増益は一部のベストセラーによるもの。他方で、E-Bookの売上構成比は9.2%と、前年の10.7%から1.5ポイント落として10%の大台を割った。ピーク時には25%を超えて3割目前にまで行ったので、昨年に始まる下落は、まだ底が見えていない。いや5%を切った時点で、この市場から退出ということになるのかもしれない。

サイモン&シュスター社(S&S)。E-Bookは6%減で、こちらはオーディオブックと合わせた「デジタル」で売上の23%と発表している。E+Aを合計するのは悪くないが、高成長が続くA-Bookと低迷が止まらないE-Bookを合わせれば、E-Bookの問題が目立たなくなることになる。ここまでなら、まだビッグファイブの異変を言うには早い。

penguin2業界トップのペンギン・ランダムハウス(PRH)はさらに先を行った。E-Bookについては、内訳を全く示さなかったのだ。説明は人を食ったものだ。「昨年の業界全体にわたるデジタル販売条件の変更に伴い、E-Bookへの需要は減退したが、それは今後の調整によって相殺されるだろう」とだけ述べている。なんとも分かりにくいが、「需要の減退(一般的に言えば売上の減少)は想定内」だから気にするな、ということなのだろう。別に口頭説明はあるとしても、これで株主や著者が納得するだろうか。全体の業績は悪くない。昨年前半(NYタイムズ・ベストセラー306点)を上回る316点をランクインさせ、近藤麻理恵の整理整頓本が半期で100万部を超えるなどこの時期としては好調といっていいが、ここ数年間の慣例を破り、フォーマット別の内訳を非公開にしたことは、動揺を示していると思われる。

「デジタル転換の成功の象徴」の消失の意味

bullrider2E-Bookの売上は2008年以来、ビッグ・ファイブが力を持つAAPでも積極的に公表されてきたし、業績発表/株主説明でもデジタル比率は公開されてきた。当然のことで、その数字はデジタル転換がうまくいっていることの証明だと考えられてきたためだ。出版社は、E-Bookの売上が伸び、それによって全体の売上と利益率も向上していることを誇ってきた。2012-3年はそのピークで、PRHのCEOなどは、旧メディア・ビジネスの中で、出版だけがデジタル転換に成功し、力を得ていると述べている。当時の認識が誤っていたとは思えないが、その後いったい何があったのだろうか。

shareデジタル比率が重要でなくなったのか、そうではなくその数字を公表したくなくなったのか。おそらく後者だろう。「需要の減退」を自然な現象と考えるなら、もはやデジタルもデジタル比率も重要ではないというのなら、そう言えばいいだけのことだ。事実はまさにその逆である。デジタル比率が低いのはE-Book市場でのパフォーマンスが低いからで、需要減退の理由は(タイトルが弱いのでない限り)、価格設定(あるいは価格モデル)の誤りの結果でしかない。しかし、それを認めることは、2014-5年の「業界全体にわたるデジタル販売条件の変更」(じつは大手だけ)の失敗を認めることになるのでできないのだ。経営責任は免れない。しかし、トップが誤りを認めないと状況はさらに悪化する。

価格モデルの変更によるE-Bookの価格引上げは、本誌が予想した通り、歴史的な失敗だった。著者には確実なダメージを与えたし、消費者はアマゾンから印刷版を買うことで対応したが、低価格のE-Bookの購入も止めなかったので、値上げはE-Book市場での大手本の存在を危険なまでに小さくしたのだ。危険、というのは有力な著者が大手出版社を第一選択肢としなくなるということだ。出版社は書店チャネルを守ろうとしたが守れず、制空権(オンライン)を失っただけで状況はさらに苦しくなった。低価格というインセンティブがなければ、数も金額も利益も達成できないことを白日のもとに晒してしまったからだ。価格を引下げることで(間接的に)失敗を認める以外の選択肢はない。 (鎌田、08/01/2016)

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