米国オーディオブック市場の成長と変容(1):多様化

transformation米国市場でのオーディオブック市場の拡大は減速することなく続き、2016年は記録的なものとなりそうだ。聴く読書が普及拡大するとともに、制作体制が整備されて品質が向上し、チャネルとマーケティングが充実する、という好循環が定着しているためだが、出版社がアマゾンや書店を意識することなく、商売に徹していることが大きい。

オーディオはもはや活字の「影」ではない

最近の調査によれば、このフォーマットで読書したことがある米国人は、2015年の41%から43%に上昇。平均5.8冊だったタイトル数は、現在6.7冊で、年末には7-7.5冊に達すると予測されている。1-2月のデータだが、前年同期と比べた市場の伸びは37%で、今年も30%台後半が確実視されている(WSJ, 07/22)。

S_KIng_Fireworksオーディオ版制作も、この市場を重視したものが増えており、昨年スティーブン・キングの短編“Drunken Fireworks” を刊行した際には、A-Bookを印刷版に4ヵ月も先行させるという試みを行った。想像だが、ラジオを聴いた人が印刷本も読みたくなる、あるいは聴いた人の評判がSNSなどで広がって…といったインパクトを期待しているのだろう。

これは地に足がついた伸びといえるが、オーディオブックが出版の中で唯一の高成長分野ということになると、別の動きが出てくる。資金とスタッフが他の業界から流入し、独立したコンテンツビジネスとしての性格を強めるということだ。A-Bookはデジタルになることで、書籍という制約の多い市場を離れて、すでに独立した市場として歩み始めている。それは、最近のヒット作の傾向に表れている。

最近のヒット作から傾向を読む

WSJ (By Jennifer Maloney, 07/21)は、最近のヒット・タイトルを5本リストしている。

BN-OZ979_AUDIOj_12S_20160720135211『ゲーム・オブ・スローンズ』 ジョージ・R・R・マーティン
英国人俳優ロイ・ドートリスを起用してヒットを続けるシリーズは今年10万本を追加し、2003年以来の通算は70万本を超えた。HBOのビデオ・ドラマは、視聴数がシーズン平均2,500万本なので、これも当然と考えられている。90歳を超える名優はこのシリーズで224人の声を演じ分け、累計録音時間は33時間を超えた。

BN-OZ980_AUDIO__12S_20160720135425『イエス・プリーズ』 エイミー・ポーラー執筆・朗読
米国の喜劇女優兼脚本家、プロデューサーのエイミー・ポーラーの回想を著者自ら語ったもの。これだけでベストセラー確定だが、キャロル・バーネット、セス・メイヤーズ、パトリック・スチュアート、キャスリーン・ターナーなど豪華ゲストも話題になり、昨年のベスト5に入った。やはり声に力がある有名人は強い。

BN-OZ982_AUDIO__12S_20160720135642『人生がときめく片づけの魔法』 近藤麻理恵
日本のサンマーク出版の自己啓発本の英訳。印刷本も100万部を超えたが、A-BookもAudibleのベストセラー・トップ10にランクインした。自己啓発本は、オーディオブックで最も売れるジャンルの一つということで、ラジオ番組的なコンテンツとして定着している。

『アンナ・カレーニナ』 レオ・トルストイ/マギー・ジレンホール
名作に有名俳優を起用して成功した例の一つ。6月にリリースされてすぐにランクインした。朗読を担当したマギー・ジレンホール (Maggie Gyllenhaal)は、人生で最も深い挑戦の一つだったと語っている。Audibleは、名作と名優のカップリングのシリーズで成功を収めており、ヘレン・ミレンに『長靴を履いた猫』を語らせたりするなど、工夫をこらしている。名作は奥行きも深いので、ナレーターにとっても挑戦となり、自然に話題となる。

BN-OZ984_AUDIO__12S_20160720135745『ロックとキー』 ジョー・ヒル、ガブリエル・ロドリゲス
劇画(グラフィック・ノベル)をベースとした(ラジオ風)オリジナル・ドラマ。有名俳優を含む50人以上を起用した大作で、これはもはや、オリジナル作品をベースにした別の創作コンテンツで、他のA-Bookと一緒にはできない。

上記の多くは大作だが、いちばん効率よく稼いだのは『片づけ』本だろう。“大作主義”はAudibleが推進してきたものだ。市場の成長とともに、インディーズA-Bookの普及で、シンプルなA-Bookが当たり前のものになりつつあり、オーディオ出版社としては、A-Book独自の表現の可能性を拡張し、様々なジャンルを強固な市場として定着させているものと思われる。大ざっぱに分けると、フォーマットとしては以下が中心となる。(つづく)

  1. 著者/ナレーターによる朗読(+エフェクツ)
  2. パフォーマーによる名作の解釈・表現
  3. ラジオ(オーディオ)ドラマ
  4. 拡張E-Bookとの融合:+テキスト、グラフィック/ビデオ

(鎌田、08/25/2016)

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