アマゾンが新しいKindleフォーマットとして、Kindle in Motionを立上げ、数点をリリースしていたことが、Kboards (7/27)などによって報じられた。シンプルな動画やアニメを組込んだE-Bookで、Kindle FireおよびKindleアプリ (iOS, Android)だが、推奨のオーサリング・ツールなどはまだ発表されていない。[全文=♥会員] 期間限定公開=2016/8/31まで
低価格、大きなファイルサイズ
「発表なしのリリース」は、アマゾンがしばしばやることだが、事実上のプレ・リリースをして徐々に使ってもらい、反響を見ながら、正式発表とプロモーションの内容を調整する、慎重なやり方だ。おかげで、Kindleの拡張フォーマットがいくつになったのかもよくわからない。2010年にデビューしたKindle A/Vのタイトルは、カタログでは現在3,000近くがあるが、あまり売れていそうには見えない。価格が高く、閲覧にもアプリが必要だからだろう。新しいフォーマットがブレイクするには、多くのデバイスでサポートされるだけでは足らず、話題性のあるタイトルが安く提供される必要がある。
しかし、Kindle in Motion (以下KiM)は、コンテンツに事欠くことはないと思われる。挿絵やアニメ、ビデオクリップを使いたいという需要は高まっており、ベースとなるフォーマットも固まってきたからだ。それにKindleがE-Bookの進化を止めてしまった、という批判も目立ってきた。誰も出版社が問題だとは考えない。動くべき時と判断したのだろう。複数のデバイス環境で同じように見えるという条件を、著者=編集者が問題なくクリアするようになるまでには時間がかかり、多くのやり取りが発生する。そのプロセスを始める体制が出来たということだ。
KiMはフィクションにもノン・フィクションにも使える。最初にリリースされたのはすべてアマゾンの出版部門が制作したもので、エドガー・アラン・ポーの作品から『アッシャー家の崩壊』『モルグ街の殺人』などをセットにしたもの、日本でも有名なフランシス・ホジソン-バーネットの『秘密の花園』、それに4本のロマンス(オリジナル)の計6点。価格は2.24~5.45ドルとかなり安い。アマゾンが普及に必要と考える価格はこのあたりということだ。
背景表示機能は読書体験の進化に貢献
体験しておくべき機能としては、アニメ化した表紙、埋め込まれたビデオクリップ、背景ページは表示/非表示の切替可能)となっている。表示は縦長モードのみ。ファイルサイズはかなり大きく、200-400MBにもなる。低価格と大容量を両立させることが、大きな課題だったことが分かる。拡張E-Bookはインフラの問題だったようだ。
本文の背景やページの飾り枠(を表示したり変更したりする機能)は、読書体験を深く、パーソナルになものする上でとても効果的だが、文字と干渉しないように扱うのは簡単ではない。KiMでは、フォント・サイズの変更などによっても本文が枠にかかることがないようにしている。かつての凝った印刷本に使われたものだが、E-Bookでよくこれをやったものだと思う。これはプラットフォームとしての重要な前進だ。
さて、これを見せられると、制作環境がどんな形で利用できるようになるのかが気になる。これはHTML5+CSS3のサブセットであるKF8の最新版あるいは拡張なのか、別のフォーマットなのか、たぶん最新版になると思われる。現行のブラウザで表示できるところを見ると、最近のFire OSアップデートで更新ものだろう。アマゾンが仕様を公開して、EPUB3系のツール(たとえばKotobee)で編集できるようになるのがいつかは不明だが、そう遠くはないだろう。◆ (鎌田、08/16/2016)
- Kindle in Motion: the Good, the Bad, and the Ugly about Amazon’s New Enhanced Format (Screenshots), The Digital Reader, 08/13/2016