紙とデジタルの関係(2):プロセス (♥)

rules_of_the_game2ベゾス氏の「著者と読者」の意味は、本質的には「コンテクスト」重視を言ったもので、哲学的/道徳的というよりは工学的/実践的なコンセプトである。技術的には非常に深い意味があるのだが、多くの人にはたんなるお題目(KDPのセールス・トーク)に聞こえたようだ。[全文=会員] ☆期間限定公開=10/6まで(本誌7周年と東京国際ブックフェアを祝して)

「著者と読者」による新しいビジネスモデル

ベゾス氏の「著者と読者」の意味を、筆者は次のように理解している。つまり、

  1. 制作・流通・配布に関する経済的負担が劇的に軽減されることによって、伝統的な出版のミドルマンは物理的・専門的機能としての意味を徐々に失う。
  2. 著者=出版主体は、読者とのコミュニケーションから生まれる価値(=意味)の発見と実現(のプロセス)に主体的、持続的に関わるようになる。
  3. 出版を通じたコミュニケーションにおいて、著者と読者を助ける者が、新しい出版サービスの中心的存在となる。プロダクト=コンテンツがすべてではない。

middleman2本質的には「コンテクスト」の価値を言ったもので、ここに注目した人は少なくないし、むしろデジタル時代の常識かもしれない。しかし「コンテンツが王様」という幻想から抜け出せない人がまだ力を持っているので、そうなっていない。

アマゾンは、著者と読者(不特定多数)の間に無数に生起し変化するコンテクストが生み出す価値をビジネス機会に変えることにより、書店での売買にほぼ限定されていたコンテンツの商業的可能性を実現するプロセスに注目している。コンテクストのダイナミズムは、勘のいい書店員なら知ることが出来るものだが、個人にはそのことの持つ意味を多角的に検証し、商業的価値に変える手段がほとんどない。

Webやビッグデータを駆使するアマゾンのビジネスモデルは、それをウォッチし、ドライブする道具だ。筆者は<プロセス指向の出版>と呼んでいるが、印刷・製本・流通・配布の付加価値が小さくなり、逆に意匠、機能、UI/UXの最適化など、読者に関わる付加価値のデザインが重視される。それはカスタマイゼーションが容易になるためである。

つまり、ベゾス氏の「著者と読者」両極重視論は、哲学的/道徳的というよりは工学的/実践的なコンセプトである。技術的、工学的には非常に深い意味があるのだが、ほとんどの人にはたんなるお題目(KDPのセールストーク)に聞こえたようだ。ベゾス氏の言葉は無駄がなく、つねに率直だ。

書店を発見し、再発明するアマゾン

stephanie-perkins-book-launching著者(=出版者)が文字コンテンツ(=作品)を通して読者(=社会)とつながる方法は、インターネットによって劇的に拡大した。アマゾンはその上に新しい出版インフラを構築し、機能させることによって「著者-読者」関係を実証した。それは、Web(クラウド)と物流(ロジスティクス)の両方にまたがるもので、もちろんそのビジネスモデルは本と出版以外のメディアビジネスにも適用できる。

つまり本体はオンラインだが、地上にも十分すぎるほどの足を持っており、必要ならポップアップの小売店を短期間に展開することもできる。すでに米国でショップを立上げて人々を驚かせていることは、本誌でお伝えしている通りだ。アマゾンがいまさら書店やデバイス専門店を立ち上げるのは、それが事前に周到に計画されていたことを示している。

author_eventアマゾンが実書店を必要とするのは、オンライン書店では十分でないと感じ、あるいはオンラインのパフォーマンスを高めるためにも実書店が有効だと考えるためだ。それは著者と読者にとって意味を持つことだ。アマゾンには投資が必要だが、この投資は一定期間で回収される可能性が高い。その可能性は、地域のユーザー密度によって計算可能だろう。すでにアマゾンのアカウントは米国人口の半数以上をカバーし、したがって精密な計算が可能になっている。

さて、著者は顔を持った存在であり、読者とのF2Fの接触を望む。日本ではそのニーズは弱いが、米国では著者を囲む読者ミーティングは伝統的に重視されており、読書文化の重要な一部だ。出版社は著者のためにツアー(講演とサイン会)を計画し、全国の書店を回って読者と交流する。それは書店がなければできないことだ。このF2Fコミュニケーションは読者コミュニティとの絆(エンゲージメント)を強め、つまりは次回作の成功を準備する。これはオンラインで代替できない。昔からある書店や図書館がベストだが、これらがアマゾンに協力する気になる可能性は、まだあまりないし、旧メディアは「アマゾンがお店の客を盗みに来る」と言って必死に水を差そうとするだろう。

紙の本を守るのは誰か

la-fi-amazon-books-20151103アマゾンは自主出版の著者を支援するために書店を作り始めた。それは紙の本が著者と読者を物理的につなぐ重要なメディアであり、その本を販売する書店は、知識の集積を示す実体として代替不可能なものであるからだ。アマゾンはオンラインの側から書店(小売店)を再発見し、E-Bookの側から印刷本を再発見した。それによってどちらの売上も伸びるだろう。

これまでのメディアビジネスは、資源の有限性の上に構築され、それを固定化する勝者たちによって寡占されてきた。「ビッグ・ファイブ」が紙に執着するのは、M&Aによって「ビッグ」になることが成功を約束してきた過去から離れたくないからだ。しかし、そうすればするほど、』著者と読者から離れることになる。アマゾンは、B&Nが瀕死の状態にある時に「書店ビジネス」に乗り出そうとしている。それは出版(著者と読者)のために紙の本を守ることで、新しい出版を展開するためだ。 (鎌田、09/22/2016)

 

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