米国で本格化する文系OAへの取組み(1)

open_access-280x150オープンアクセス(OA)は、これまでもっぱら理工系の技術論文に偏っていた。しかし、人文系にもニーズがないわけはない。印刷本の採算性悪化により、人文系出版の危機は理工系よりさらに深く、人文系教育の危機にも及んでいるからだ。米国では文系OAの本格的な実証プロジェクトが始まろうとしている。

遅れていた文系(HSS)のオープンアクセス

peter_berkley米国大学出版協会のピーター・バークリー事務局長が、Book Businessに寄稿した「人文・社会科学系のオープンアクセスに未来はあるか」という記事 (11/13)は、出版社の立場からOAの可能性と課題を語ったものとして興味深い。「少し奇異に聞こえるかもしれないが、大学出版局が次の1年に判断を迫られる最も重要なテーマは、オープン・デジタル版の提供が求められる人文・社会科学系の長い研究書の補助金付出版を受け入れるかどうか、ということになるかも知れない。」とバークリー氏は述べている。

いわゆる学術出版は、STEM (科学技術工学医学書)とHSSに分けられる。周知のように、STEMでは学術雑誌(ジャーナル)を中心にOAが拡大しており、伝統ある出版社もOAに対応したビジネスモデルへの転換を図っていることは最近の記事で紹介した。こちらは重要な経済活動(研究開発+教育)の一部であり、出版のビジネスモデルの組替えは紆余曲折はあっても進むだろう。しかし、HSSに関してはまだゴールが見えていない。「文系不要論」さえ唱えられる日本を筆頭に、市場の将来に疑問符が打たれているからだ。

米国の公的補助プロジェクトと状況の転換

ku_oaHSSにおけるOAプログラムには、Knowledge Unlatchedが知られており、最近カリフォルニア大学出版(UCP)のLuminos プラットフォームが登場した。大学出版局の復刊シリーズ、商業出版社による無償提供本を加えればかなりの数になる。それでも、毎年出版される研究書の中でOAが占める割合はまだ僅か。バークリー氏によれば、そうした状況は変わり始めたという。

luminos_oa今年の3月、米国大学協会(AAU)、研究図書館協会(ARL)、米国大学出版協会(AAUP)がHSS分野の研究書を対象に、OA化を条件とした全額費用補助のパイロット・プロジェクトを開始することを決めた。詳細はまだ検討中で、当事者はそれぞれ固有の問題を解決しなければならないが、このパイロットによって年間200人以上の研究者に出版の機会が開かれるとすれば、たしかに影響は少なくないだろう。これが契機となって、分野別など様々なOAプロジェクトが始まり、民間の資金援助の可能性も出てくるからだ。

バークリー氏は、プロジェクトを通じて文系OAが答を見出すべき、以下のような課題を提示し、予備的な検討を示している。(続く)

  • OA研究書は学術書としての品質を維持できるか
  • 長いOA書籍の製作にはどのくらいのコストがかかるか
  • 人文系学者はOAを歓迎するだろうか
  • すべての学者がOA研究書にアクセスできるのか
  • OAの利点:発見と知識の普及
  • 印刷本の販売を妨げないか

(鎌田、11/16/2016)

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