聴く読書は視る読書に劣るか?

Audio-Logoインターネット・ベースの市場調査メディアYouGovが、英国でのオーディオブックのユーザー調査を発表し、英国人の55%はこの「聴く」メディアを「目で読む読書」より劣ったものと考えていると結論づけた。それで普及が遅いのだそうだ。活字冊子本を読書の絶対的基準とする発想は根強い。

「英国人の55%は耳の読書に否定的」

read2この調査によれば、「本をオーディオ版で聴くのと目で読むのとは同等(equivalent)だと思いますか」という質問に、「聴く読書は視る読書より劣る」という回答が55%、「どちらも同じ程度」が10%、「聴く読書は視る読書に優る」としたのは5%であったという。そして「おそらくこうした認識のために、8割以上(83%)の人が一度もオーディオブックを聴いておらず、毎月聴いている人は6%に止まる。」と述べている。

これでは多くの人が、(米国と違って)英国ではこのメディアの市場はなさそうだと早とちりするだろう。しかし、これはYouGovにデータリテラシーが致命的に欠如していることを物語るものでしかない。

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いわゆる社会調査には、一見して矛盾する記述を見出すことが多いが、これもその好例。元データを参照しないと何も言えない。それによれば、8割以上(83%)の人が一度もオーディオブックを聴いておらず、回答者の30%が「分からない」と答えているのだが、適格者が極度に少ないサンプルに対して、視る/聴く読書の優劣を質問することにどんな意味があるだろうか。回答者の15%は、月に1回以上読んでおり、2%は分からない、という。

The Digital Readerのネイト・ホフェルダー氏は、15%という数字が、米国の昨年の調査結果(回答者の14%)とほぼ匹敵することを指摘し、これをもって英国のオーディオブックが(年率30%あまりで成長している)米国の市場普及率と同水準とは言えないとしても、英国では消費者に支持されていないというYouGovのレポートは見当違いであると述べている。その通りだと思う。

それでも「聴く」市場は伸びていく

他方で、英国でのオーディオブック固有の出版の問題点もある。同じ英語圏でも、本のコンテンツの版権は、地域別に印刷本、E-Book、A-Bookとフォーマット別に独立して取引されており、米国コンテンツの版権に関しては(価格と市場規模の関係で)A-Bookが外される傾向にある。『ハリー・ポッター』などでは英国版が製作されているが、コストは米国より高い。こうした「領域問題」は、結局Audibleのような出版社によって解決されるかもしれない。

筆者からすると、質的に異なる「視る/聴く読書の優劣」比較は無意味だと思う。「ステーキとかつ丼のどちらが美味いか」を聞くようなものだ。読書体験は、コンテクストとモード(状態)によって同じではない。質的に異なる読書体験の優劣を論じたいならば、条件を設定し、評価軸を立てる必要がある。絵巻物として語り継がれ、読み継がれてきた『源氏物語』は、多くの人にとって視るのも聴くのも難解だろうが、コンテンツの持つ異なる側面を伝え、より深いアクセスを可能とする。ドラマ化された小説も同様だ。

紙とデジタルのどちらがいいか、というテーマと同様、活字と音では、というばかな設問も消えてほしいものだと思う。 (鎌田、11/02/2016)

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