Wattpadは11月22日、Comcast/NBC系の映像制作会社 Universal Cable Productions (UCP)と提携してオリジナルTVコンテンツの共同制作に進出することを発表した。ビジネスモデルを求めるWattpadは、とうとう世界最大のメディア企業との提携に行き着いた。問題はこれが機能するかどうかだが、「データ」が結び付けた縁には合理性がある。
データ+コミュニティ駆動のドラマ化
出版界では世界最大(4,500万人)のソーシャル・プラットフォームとなったカナダのWattpadは、メディア企業として世界最大のコムキャスト傘下NBCUniversal Cable EntertainmentのTV製作部門に属するUCPと「将来のTV番組制作に影響を与えることになる」契約を締結した。UCPはWattpadのコンテンツをもとに、ミステリ、SF、アクション、ティーンズ、各種フィクションなど多分野にわたる企画をプロジェクト化して番組を制作していく。企画はWattpadのクリエイティブ・コミュニティと顧客データや調査に基いてUCPが判断し、決定する。
「UCPは、米国や世界中から、まだどことも契約していない未知のタレントや、デビュー前の作家をつねに求めています。そして驚異的なストーリーテラーのプラットフォームであるWattpadは、私たちに素晴らしい物語へのアクセスと同時に、何が読まれ、シェアされ、評価され、共感されているかというトレンドをリアルタイムで知るデータを示してくれます。」とUCPのドーン・オームステッド副社長は述べ、今年立ち上げたばかりのWattpad Studioのアーロン・レヴィッツ社長は、「今日のコンテンツ開発では、勘や思いつきが通用する余地はありません。データとコミュニティが牽引するエンターテインメントこそが未来であり、弊社はその道をリードしています。」と興奮した調子で述べている。
<小説/脚本→映像→出版>のサイクル
毎月230万人の書き手が、3億本以上のオリジナル・ストーリーを提供するWattpadは、初めて巨大メディアへのアクセスを得たことになるが、契約の詳細は明らかにされていない。おそらくUCPはコンテンツとその仮想コミュニティに関するデータへのアクセスを得て、確率の高いドラマ製作を進めていくことになろう。Wattpad Studioがコンテンツの版権に関与するか、そしてどのような形で金銭が動くのかは不明だ。Wattpadの強味は、著者よりも読者のデータであり、この契約はUCPがそれをどう使えるかにかかっている。
出版に比べれば大きな金額が動くTVのドラマシリーズの企画にデータ・マーケティングが導入されてから半世紀あまりになるが、脚本段階で分かることは僅かで、実績のないものには適用できなかった。この辺の事情は出版とも共通している。リスク回避のために企画がマンネリ化するのはどちらも同じだ。Wattpadは、無名作家の投稿が生み出すコミュニケーションとコミュニティがユニークな価値をもたらしてきた。投稿者と読者の数は膨大で、ビッグデータ分析の対象として適当な規模だ。しかし、Wattpadにはデータを使った経験がない。UCPとの提携は双方にとって有益なものとなる可能性が高い。
おそらく双方の期待は、映像化で大ヒットし、本も売れたアンディ・ウィアー原作 'The Martian'(邦訳『火星の人』)、あるいはファンフィクで登場したE.L.ジェームズの「フィフティ・シェイズ」三部作を再現することにあると思われる。◆ (鎌田、11/24/2016)