Ember BoldフォントとKindleの「太字」問題

amazon-kindle-devices-receive-new-firmware-get-version-5-8-7-510632-2アマゾンは最新世代Kindle向けファームウェアの更新(5.8.7)でEmber Boldフォントをメニューに追加したことを明らかにした。Kindleが太字書体を使えない状態を放置してきたことは、弱視に苦しむ少なからぬユーザーの不満を鬱積させてきたので、これは同社としては重要な一歩だ。しかし、なおKoboに比べて遅れているという批判は消えない。

なお「不十分」の声

amblyopiaこれまでのところ、Oasis、Voyage、Paperwhite (II ,III)での動作が確認されているが、Paperwhite I は対応していないようだ。フォントの追加は、限界的性能の部品を巧みに使ってきた旧世代のKindleには負担が大きすぎる可能性もあり、これはやむを得ないだろう。

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Oasis とともに登場したAmazon Emberのファミリーに属するEmber Boldは、サンセリフ系の太字フォントで、セリフ系のような「髭」がなく、可読性という観点では必ずしもベストではない。いわば「本文用太ゴシック」のようなものだ。今後「太髭」が登場するかどうかが注目せざるを得ない。それにしても、アマゾンがこれまで「太字」を避けてきたのはなぜか。Koboは、端末側で文字のウェイトをスライド式で調整するほかに、ユーザーが好みのフォントをダウンロードすることもできるので、弱視の人向けにはそれで対応すればよい。アマゾンがなぜ同じ方法(ユーザーが解決)を取らなかったのか。じつは初期のKindleはフォントのダウンロードが可能だったので、アマゾンはサーバ側でのコントロールにこだわったことになる。

TeleReadのデイヴィッド・ロスマン氏は、(1) 太字オン/オフの切替スイッチ、(2) ダウンロードの自由化、(3)字間、行間、文字スライダーの微調整が可能なスライダー、を提案している。いずれもKoboで提供されているものだ。しかし、こうした解決は、Koboとは立場が違うアマゾンが、もともと採用しないことに決めていた可能性が強い。

「太字問題」は可読性だけではない

太字問題が長引いた別の理由として考えられるのは、書体の選択肢としての太字書体と、スタイルとしての太字=強調(bold)の混在の問題である。太字は「文字のストロークを通常の書式より太くした書体」のことで、斜体や白抜き、傍線、圏点などのスタイルと同じく、単語やセンテンスを強調するために用いられる。同じ強調でも、対象の属性や著者の意図によって様々な使い分けが必要とされることもあり、活字時代の昔から編集者・制作者を泣かせてきた。デジタルがスタイルに及ぼした影響(混乱)はなお続いている。「強調」は一定の技術的限界の中で、意味づけ(コンテクストの明確化)のために行うものだが、前者はつねに変化してきたものだから、明確な標準というものはなく、著者・編集者にまかされている。

boldtype意味に関わる表示指定は、デザイン上のフォント指定とは区別されるべきものだが、最初からウェイトを上げた太字書体は、編集者が用いる「強調文字」を一律に無効化する可能性がある。デバイス環境に依存しない表示指定を共有できれば問題ないのだろうが、標準が乱立すれば編集者が苦労してきた印刷本時代の歴史はさらに繰り返されることになる。ともかく、アマゾンが太字書体をメニューに加えたことで、強調指定としての太字は無意味とななる可能性が出てきた。編集者は別の指定方法を使う必要がある。

アマゾンは標準化においては注意深く傍観する態度を崩しておらず、やはりIDPF/W3Cに期待するしかないのだろう。しかし、市場のリーダーとして、アマゾンは出版者とユーザーに対して、問題の確認と共有、技術的選択肢とトレードオフ、解決へのロードマップの提案を行うのがベターだろう。弱視者の読書支援は社会的問題であり、表示指定問題もそうだからだ。 (鎌田、12/13/2016)

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