欧州出版界の「無風状態」とその裏側

fep欧州出版社連盟(FEP)は11月24日、EUおよび欧州経済圏の28ヵ国からの集計をもとにした2015年の市場規模を223億ドルと発表した(PDF)。前(2014)年比では1%台のプラス。E-Bookの市場は、既刊本のデジタル化、PoDの利用増加、自主出版の増加で拡大しているとしていて、タイトルは400万点、売上額の市場シェアは5-6%と推定されている。

欧州出版市場は380億ユーロ(4.5兆円)規模

the_calm上記の市場規模は出版社の書籍卸販売収入で、書店マージンを含めた書籍販売総額ではない(日本は小売表示)。FEPは総市場規模を360~380億ユーロと推定している。これはほぼ北米市場に匹敵するものだ。2015年の新刊点数は57万5,000点と少ないが、28ヵ国でのデータの採録基準はまちまちで、改訂版や非商用版も含まれるものがあるので、低めに見積もっているという。既刊本の在庫は2,200万点(デジタルは400万点)。既刊タイトルの18.2%がデジタル化されていることになる。新刊点数が多いのは、英国、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアの順。出版産業の常勤雇用は12.5万人。著者、書店、印刷・デザインも含めた出版関連の雇用規模は50万人あまりと推定されている。

2011年から5年間の数字が掲載されているが、集計方法の変更で2014-15年で総点数が500万点あまり増加している(しかし金額は一定)以外、変化がほとんどないことに驚かされる。出版社の売上は220億ユーロ台で一貫し、児童書を除く商業出版は49%前後で一定している。不自然な安定というしかない。若干の変化は輸出比率の上昇で、2011年の19.5%が3.4ポイント上昇して22.9%になっている。

変化は確実に起きている

しかし、経済状況も変化する中での停滞と安定は、表面的な数字の下に隠れてるものを連想させる。第1に、この数字は「欧州28ヵ国出版社の売上」であって、米国など域外出版者の販売分は含まれない。第2に、主としてアマゾンを介して販売される自主出版はスルーされる。域外への輸出は14-15年に3ポイント上昇し、その分域内が減少して相殺されているが、これはグローバル化が進んだことを意味している。もし国内小売市場が減少していないとすれば、輸入が増加している可能性が高い。デジタルが5-6%で2016年は停滞が予想されているが、これが域内出版社全体のものだとすると、一部の汎欧州出版社は10%台を超えている可能性が高いということだ。

forest統計というものは、定点観測としての利点と限界を持っている。市場の構造が変化する時には現実との乖離が大きくなる。出版についていえば、それは生産(出版社/非出版社、印刷会社/デジタルサービス)、流通(オンライン/在来書店)、国境(域内/域外、輸入/輸出)の間で発生する。伝統的な業界統計は、伝統的サプライチェーンに沿って構築されており、そこから外れたところに成立する存在・現象は無視され、むしろ業界外から発見・観察される傾向にある。伝統的な統計は業界のために存在するから、どうしても「保守」的になるのだ。デジタルが最も進んでいる米国では、自主出版とアマゾンがレーダーから外れることで、信頼できる(社会的に共有される)産業統計が得られなくなって久しい。過渡期にはやむを得ない現象だが、それは長期的には出版社のデジタル適応を遅らせ、アマゾンにとってのみ有利に働く。 (鎌田、12/20/2016)

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